森番のハグリッドの所へ行くという三人を見送っても、ドラコに対する怒りはちっとも冷めやらなかった。
「……寮にいるかしら」
早いところとっ捕まえて、どういうつもりなのか問い質してやりたい。
そう思い、寮へと続く方向へと足を向ける。
「おいおい、どこ行くんだよ」
ジョージの声に足を止めた。声がした方を振り返れば、少し離れた柱にもたれるジョージを見つけた。
「僕との約束は忘れたのか?」
「……あっ」
小さく零した音に、ジョージは片眉を上げる。
「あ、ってなんだよ」
「えーと……ごめん、忘れてた」
誤魔化そうかと思ったけど、じとっとした目で睨んでくるジョージ相手には無理だと察し、素直に謝った。
ジョージとの約束は、ドラコへの怒りで完全に頭から追い出されてしまっていた。胸をいっぱいにしていた高揚感もどこかに行ってしまっている。
朝からずっと楽しみにしていたのに。しゅんとしていると、ジョージがすぐ前まで歩いてきた。顔を少し上向かせると目が合う。
(怒ってる?呆れてる?)感情を読み取ろうとした時。
「って、ハリーやロン達とは普通に話すんだな」
「見てたの?」
不思議そうな、それでいてちょっと不満そうな。そんな物言いにパチリと瞬く。
普通に、とは。一瞬考えて、往来のある廊下で話していたことを指摘されているのだと思い至る。
「えーと、人が沢山いる所では話しかけないようにしてるんだけど、今日はちょっと訳ありだったから……目立ってた?」
一応周りを確認して話しかけたんだけど、途中で私も我を忘れてしまったし、その時に注目を浴びてたのかも。心配になってジョージに問いかける。
「全然」
そう言って、ジョージはなぜかニヤッと笑った。意地悪い感じのこの表情、見覚えがありすぎる。
「君、ハリー達の陰に隠れて見えづらかったし、誰も気にしてなかったんじゃないかな。ほんと、ってちっちゃいんだな。新入生かと思ったよ」
「……それ以上言ったら、あなたのその長い足にタップダンスの呪いをかけてやるわよ」
懲りずに身長弄りをしてきたジョージを睨みつつ脅せば、「おお、怖い」と笑って躱される。私だって本気で怒ったわけではない。ふん、と一つ鼻を鳴らして気持ちを切り替えた。
「それで?ジョージ、これってなんなの?」
周囲を見回し、近くに生徒がいないことを確認し、ポケットから折り畳んだ羊皮紙を取り出す。
文字が書かれた面を見せながら尋ねると、ジョージは得意げな表情で自分もポケットから羊皮紙を取り出した。適当に突っ込んでいたのか、全体的に皺ができている。
「これは僕の発明品さ!僕のと君の、元は一枚の羊皮紙で、片方に書いた文字がもう一方の紙に転写される仕組みになってる」
「へぇー!」
自作の魔法道具について話すジョージの、その語りがとても楽しそうで、ワクワクしながら耳を傾ける。
「夏休みの宿題のために作ったんだ。一人で二人分済ませられたら楽ちんだろ?だけど、残念なことに何度試しても書いた文字は半日もしたら消えちゃってね。泣く泣く没にしたんだよ」?大袈裟に目元を拭う真似なんてするジョージに腕を組む。涙なんて少しも浮かんでないじゃない。
「狡いこと考えてたのね。宿題は自分の力でやりなさいよ」
「うげ、ママみたいなこと言うなよ。それにズルじゃなくて、効率重視だって言ってくれ。……とにかく僕が言いたいのは、僕にとっては失敗作だったんだけど、君にはピッタリってこと」
「?」
「これなら直接話さなくても連絡が取れるし、文字は半日経てば消えるから何度でも使えるだろ?まあ、試作段階だから何か不具合があるかもしれないけど……その時に直せばいいしな。とりあえず、これで連絡を取るってことでどうだい?」
「ジョージ、あなたってすごいわね!!」
口の端を上げてこちらの反応を伺うジョージに、興奮気味に賛辞を送る。
(なんて素敵なものを作ってくれたんだろう!)
楽するために狡いものを作ったと苦言を呈したことなんて、すっかり彼方に投げ飛ばしてしまった。
心からの称賛に、ジョージは「当たり前だろ。僕を誰だと思ってるんだよ」とにんまり笑う。
「話したいことがある日は、これを使って連絡を取る。オーケー?」
「オッケー!」
これを使えば、ジョージと話ができる。心配していたことが解消されて、心が軽くなった。もしかしたら体がちょっと浮いてるかも。そんなことを思うくらい、嬉しい気持ちでいっぱいだった。一人だったらスキップでも、ダンスでもしたい気分。
「おいおい、そんなに浮かれてて大丈夫かよ。いつぞやのネックレスみたいに落としちゃうんじゃないか?」
「失礼ね!無くしたりしないわよ!」
強めに言い返したけど、ジョージは「どうだか」とあまり信じてなさそうな表情をする。たった一度のミスだったのに、不用心だと思われているなんて心外だ。唇をへの字にしたら、またジョージがおかしそうに笑った。
「じゃあ、僕は用事があるからこれで」
ポケットに羊皮紙を突っ込んでジョージが別れを告げる。あまりにも早い別れの挨拶に「え」と目を丸くした。近くに生徒はいないし、まだ話せるはずなのに。
「もう行くの?」
「フレッドとリーとの先約がある。それに、君も用事があるんだろう?」
そう指摘されて、浮ついていた頭の中が急に冴えた。
(そうだ、ドラコに話をしに行かなくちゃ。)
そのことを思い出して唇の内側を噛む。ジョージと話したい気持ちはいっぱいあるけど、今はこっちの方が大事だ。
「……うん。ジョージ、次はゆっくり話そうね。連絡する」
「ああ。じゃあまたな、」
そう言うと、ジョージは踵を返して歩き出した。その背中を名残惜しく見送る。中庭から冷たい風が吹き込み、ジョージのローブの裾を揺らした。
「……もっと話したかったなぁ」
ポツリと零した声は、自分でも分かるくらいに寂しさが滲んでいる。
──でも、ジョージは「また」と言ってくれた。次の約束ができた。
それだけで心が温かくなっていく。
「よし。待ってなさいよ、ドラコ!」
羊皮紙を大事にポケットに仕舞い直して、私も寮に向けて歩き出した。
失敗作の使い道