午前中の授業は、ジョージとの約束のことを考えていたらあっという間に終わってしまった。
ぼーっとし過ぎたせいで、さっきの魔法薬学の授業では薬の材料を投入する順番を間違えて危うく鍋を爆発させるところだった。寸前の所で防いでくれたスネイプ先生には感謝しかない。入学以来初めての大失態に頭を抱えそうになったけど、授業を終えてからはすっかり頭の片隅に追いやっていた。
(あと半日!)
昼食に向かう足取りがいつもよりずっと軽い。めちゃくちゃ浮かれているなと思うけど、残念ながら自分では止められそうになかった。
「ウィネじゃないか」
そんな私を止めたのは、ドラコの声だった。
振り返ると、通り過ぎたばかりの教室の前にドラコがいた。その後ろにはクラップとゴイル。大柄な二人を従えて、人の多い廊下のど真ん中を歩いてくる。
「ドラコ、お疲れ。貴方達も昼食に行くの?」
「ああ」
それじゃあ一緒に行こうかと誘おうとした時、教室から出てくる生徒の中に見覚えのある顔を見つけて「あっ!」と弾んだ声が出た。
ハリーだ!ロンとハーマイオニーも!
今年初めて出会えたことが嬉しくて名前を呼ぼうとしたけど、隣に立つドラコの存在を思い出し、音になる前に飲み込んだ。
(危なかった!)流石にドラコの前はダメだろう。横目にドラコを見て、もう一度ハリー達に視線を向ける。
エメラルドの瞳と、目が合った。
向こうも「あ!」って感じの表情で、すぐに嬉しそうに笑った。
(今年もハリーが可愛い!!)
思わず胸を押さえた。ロンとハーマイオニーも私に気がついて、控えめに手を振ってくれたものだから堪らずよろめきそうになった。今年も3人組が愛おしい。
「ウィネ?」
私の挙動を不審に思ったドラコの声が少しだけ低くなり、私の視線を追うと口の端を歪めた。
「おい。クラップ、ゴイル」
顎でしゃくる仕草一つで、ハリー達のことを知らせる。
「ゲエェッ」
突然三人が揃って、わざとらしく喉を押さえて吐く真似をしたから、びっくりして大きく飛び退いた。
「は!?なにっ、どうしたの!?」
「っく、あはははっ!」
意味が分からず動揺する私を完全に無視して、今度は三人で腹を抱えて笑い出した。その笑い声は楽しいというよりも、相手を馬鹿にするような面白がっているような響きがする。
頭の上にいくつもはてなマークを浮かべながら彼らの視線の先を追い、目を丸くした。
(お、怒ってる!?)
ハリー達は、遠目でも分かるほど眉を吊り上げていた。ロンにいたっては怒りすぎて顔が真っ赤になっている。
どういうこと?てっきりドラコ達の意味不明な行動に呆れるくらいだと思ったのに。
「ちょっとドラコ!なんなのよ!?」?未だ笑い続けるドラコに詰め寄ると、ドラコはようやく笑いを収めてこっちを見た。
「ウィーズリーの真似だよ。あいつがナメクジ吐いたの知らないのか?」
その答えに絶句した。ナ、ナメクジを吐いた!?
「知らないわよ!」
「それは勿体無い。あれは実に傑作だったのに」
「ちょっ、待ってよ!」
せせら笑うように言って、用は済んだとばかりにドラコが歩き出す。ハリー達を揶揄い、彼らの反応に満足したらしい。
ドラコの背中を睨みつけているハリー達が気になって仕方なかったけど、今はドラコの後を追うことにした。
「ねえっ、ちゃんと説明して!」
すぐに追いつき横に並んで問いかければ、ドラコはこっちを一瞥した後、面倒くさそうに口を開いた。
「あいつら、僕がシーカーに選ばれたことに口を出してきたんだよ」
「ハリー達が?」
「ああ、そうさ。僕が新しい箒を持っているのが、グリフィンドールの奴らはよほど気に入らなかったらしい。最新型の箒を選手全員分揃えるなんて、奴らには到底無理だからな」
眉を顰めた私を気にする素振りも見せず、ドラコは鼻で笑う。
「しかもちょっと言い返されただけで、呪いをかけるなんて蛮行に出たんだよ。結果、呪いはかけたウィーズリー本人に跳ね返ったってわけ。ああ、怖かった」?怖かったという割には顔は楽しげに笑っていて、そんな感情はちっとも感じられない。
「ハリー達がそんなことしたの?」
「ああ、そうさ。そういう奴らだよ」
肩を竦めて言い捨てる。ドラコの話に少し考え込む。
最新の箒が羨ましくて、売り言葉に買い言葉で呪いをかけた。
(あの子達がそんなこと……うーん、するかもしれない。)
相手のことを妬んで害する子達ではないだろうけど、ドラコの挑発に乗ってやっちゃった可能性はあるかも。ドラコのことだから「ちょっと言い返した」だけで済むわけがない。必要以上に煽ったに違いない。
そう思ったけど、あえて突っ込むのはやめて「大変だったわね」と一言だけ返す。
恐らく、いやきっとドラコは多少誇張して話しているだろうから全部を鵜呑みにはしないけど、呪いをかけられそうになったのは事実なんだろう。労りの言葉をかけると、ドラコの機嫌が少し良くなった。
「ああ、そういえばウィネ、知ってるか?ウィーズリーの杖はテープでぐるぐる巻きなんだよ。魔法一つまともに使えない、あんなのは最早杖と言えないね。それなのに貧乏なあいつの家じゃ新しい杖の一本さえ買ってもらえないんだよ。かわいそうだなあ」
「……かわいそうなんて、全然思ってないくせに」
ボソリと呟いた声に、ドラコは殊更面白そうに笑ったのだった。
あと半日!