Revolt of the Sorting Hat

おお、人がいっぱい。
今朝まで1ヶ月間、大広間は食事のために毎日通った見慣れた場所だったけど、大勢の生徒で埋まった部屋の光景は新鮮で、キョロキョロ周りを見回してしまった。
魔法がかけられた天井は満天の星空を映し、火を灯した蝋燭が空中でくるりと回る。

と、集団の前方が立ち止まり、見回すのをやめて前を見る。拍手が鳴り止み、しんと静寂が降りた中をマクゴナガルが歩く音だけが響く。
「これより、組み分けを行います」
組み分け帽子が座す椅子の横で振り返り、威厳に満ちた声が大広間に響く。真っ直ぐ届いた声に、ぴんと背筋が伸びた。
突然歌い始めた古ぼけた帽子に周りが驚いた後、マクゴナガルは長い羊皮紙を取り出した。
「アボット・ハンナ!」
名前を呼ばれた女の子が緊張した面持ちで前へ出る。
さあ、組分けの始まりだ。



……呼ばれない。
あれぇ、おっかしいなぁ。もう残っているの、私とロンともう一人だけだよ?とっくに呼ばれててもおかしくないのに。
「ウィーズリー・ロナルド」
名前を呼ばれて、ロンがガチガチになりながら椅子へと向かう。
そんなに緊張しなくても大丈夫だって。そう思っている間に、ロンの組分けはすぐに終わった。
向かう先はもちろんグリフィンドール。
出迎えるハリーと笑い合う様子を微笑ましい気持ちで見ていたら、もう一人の男の子が名前を呼ばれた。この子、確かスリザリンだったっけ。
……っていうか、ついに最後の一人!?
不安になってマクゴナガルに視線を送れば、目が合って微かに笑われた気がした。
安心しろってこと?
男の子が記憶の通りにスリザリンに組分けられ、テーブルへと駆けて行く。

それを目で追っていたら、ようやく名前を呼ばれた。ほっと胸を撫で下ろして、歩き出す。
最後なのと、日本人が珍しいからなのか、背中に向けられる視線の多いこと痛いこと。
早く終わらせたくて少し早足に椅子まで行き、その勢いのままに座る。
すぐに帽子が被せられて、視界が闇に覆われた。

「……ふむ、君は実に不思議な子だね。少し異質な存在のようだ」
少し待ってたら帽子が喋りだした。
異質って。心の中でツッコミながら、核心を突いた言葉に膝の上に置いた手を握る。
……この声、私にだけ聞こえてるんだよね?じゃないと、ちょっとヤバイ。私にだけ聞こえる声であることを祈ろう。
「君はきっと、何かとても偉大なことを成し遂げるだろうね」
組み分け帽子がゆっくりと紡いだ言葉に、眉間にしわを寄せる。なんでその台詞が私に向けられて言われるのか。
「しないよ。面白いことが起こるのは好きだけど、それは私とは無関係のところで起きるものだけ。自分が関わるなんて絶対ごめん。だから、7年間を平穏に過ごせる寮でよろしく」
「そうか、そうか。それじゃあ君は―――スリザリン!!!」
頭上で大きな声が響いて、左の方から大きな拍手が聞こえてきた。

……まてまてまて。今、なんて?どこって――――。
「ちょっと、話聞いてた!?私が好きなのは平穏だって!!」
理解するまで3秒。帽子の鍔を掴んで頭から退け、テンパりながら言葉をまくし立てた。
どこをどう聞いたらこんな決断に至るのよ!?スリザリンって、スリザリンって!!

「ミス・、落ち着きなさい。それから、スリザリンの席へ」
マクゴナガルの声にはっと我に返る。見上げればなんとも言い難い表情で、しかし断固とした口調で告げられたことに肩を落とす。
……受け入れるしかないのか。大きく息を吸って吐いて、鷲掴みにした組み分け帽子を椅子の上に戻す。
鉛のように重たい足を引き擦りながらスリザリンのテーブルまで行く。
「ようこそ、スリザリンへ」
「よ、よろしくお願いします……」
辿り着いた私に向けられたのは大変ウェルカムな雰囲気で、返した笑顔はきっと不恰好だったに違いない。

組み分け帽子の乱