contract document

「うー、疲れたぁ〜……」
出窓の手前にあるベッドに顔からダイブすれば、ぼふっと音を立てて体が沈んだ。
このベッド、いいクッションマット使ってるわ。
いい感じの弾力に体を委ねながら、1時間ほど前の出来事を思い出す。


*****


「今日から城で暮らすことになったじゃ。儂の養子となった子じゃ」
ハリーについて色々聞いた後、校長に連れて行かれたのは大広間。
そこにいたマクゴナガル先生を始めとした教授陣を前に、ダンブルドアは開口一番にそれだけ言った。
きっと、あの時の教授陣の顔は忘れられないわ。
不審とか驚きとか疑惑とか。
そんな視線が向けられて、乾いた笑いを浮かべるしかなかった。


*****


そして今。
なんとも気まずい夕飯を終えて、当たり前だけど不信感MAXのマクゴナガルに連れてきてもらったのがこの部屋。
図書室まで回転階段なし。徒歩2分の好物件。
入学までに魔法の勉強がしたいと我が儘を言って、割り当ててもらった。
「っていうか……私、本当に魔法使えるの」
「使えるよ」
勉強しても魔力がないんじゃ。思わず声に出してしまった不安。
それに返ってきた声に、ばっと顔を上げ、

「契約の話をしようじゃないか」

白い月を背後に、出窓に腰を掛けて優雅に微笑む「神様」と目が合った。


、久しぶり」
「……こんばんは。契約って?」
いつ、どうやってそこに。
そんな疑問が湧いたけど、口に出すのはやめた。相手は神様だ。
至近距離に見下ろされるのが嫌で、体を起こしてベッドの脇に立つ。うん、だいたい一緒の高さ。
「君に与えた力のことでいくつかね」
そう言うと、突然目の前に一枚の紙が現れた。
「それが契約書。本当ならこんなの書かないんだけど、君は二つ願ってしまったから」
契約書。
一番上にでかでかと書かれたその三文字を見て、その下に書いてある内容に目を通す。


1.汝に以下の力を与える。
 ・魔法の力
 ・不死の力

2.ただし、以下の条件を付する。
 ・魔法の力は契約者の努力によって強化する
 ・不死の力の行使は三度までとする
 ・私を楽しませること
 ・契約者の命が尽きた時が契約の満期とする


「……あの、この条件の」
「ただ見てるだけはつまらないだろう?楽しませてくれると期待しているよ」
読み終わり、ひっかっかった点を尋ねようとして、それより先に答えが来た。
「楽しませられなかったら……?」
「それは、その時になったら分かるよ」
うわ、その回答と笑顔むかつく。
っていうか、さらっと言ったけど私のこと見てるって……。

「他に質問がなければ、そこにサインを」
また突然、契約書の横に高そうな羽ペンが現れた。――朗報。そろそろ驚かなくなってきた。
若干言いたいことはあったけど、前に会った時とは違って食えなさそうな笑みの神様に黙って羽ペンを握る。
インクもつけていないのに、紙の上でペンを走らせればサインが刻まれる。

「不死の力をあの両親に使ったのはノーカウントにしてあげるよ」
書き終わると同時に紙とペンは消え、次には神様の目の前に現れた。
「だから、あと3度。よく考えて使うんだよ」
そう言って、また優雅に笑う神様に知らず背筋が伸びた。

「それじゃあ、。楽しい時間が送れるように頑張ってね」

それは私が?それとも貴方が?
そう問いかけるより早く、神様は瞬き一つの間に消えた。



契約書