A recent-state report of him

「ハリー・ポッターは10年前、赤ん坊でありながら『例のあの人』を倒して生き残った男の子だ。お前さん、例のあの人は知っておるよな?」
「いいえ、知りません」
その返答に、またハグリッドが目を丸くした。
そして溜め息とともに「まさかハリー以外にも知らん奴がおるとは……」と零した。
なんでハリーがヴォルデモートを知らないんだろう。
そのことを疑問に思ったけど、ハグリッドの声に思考を中断する。
「20年前、とある魔法使いが魔法界を支配した。それが例のあの人だ」
「名前は?」
「名前は聞かんでくれ、何度も口にしたくない。……当時、あやつに刃向かった多くの魔法使いが殺された。だが、ハリーは生き残った」
闇の帝王様がゴドリックの谷に行ったとこらへん、だいぶ端折られた。
そう思いつつ、「ハリーって凄いんですね」と言葉を挟めば、ハグリッドはにんまり笑った。

「それで、ハグリッドはハリーに手紙を届けに行ったんでしょう?」
自分の事のように誇らしげな顔のハグリッドに、微笑ましい気持ちを抱く。この人、本当にハリーの事好きなんだなぁ。
そしてそれと同時に、ハグリッドの口を滑らせるなら今だと思い、表情を柔らかくしながら問いかける。
そうするとハグリッドは胸を張って、尚更誇らしげな表情になる。
「あぁ、ダンブルドア校長先生から仰せつかってな。手紙を渡して、ダイアゴン横町まで入学に必要な物を買いに行ったんだ。グリンゴッツに他の用事もあったからな」
「え?」
「ハリーは昨日まで、マグルの親戚の家に住んでおったんだ。しかし、そのマグルというのがマグルの中でも特にひどい奴らでな、ハリーに魔法のことを何一つ教えとらんだけでなく、あろうことかダンブルドアを侮辱しおって」
「ちょ、ちょっと待って。ハリーって、両親はどうしたの?まさか亡くなって……」
私の疑問符が聞こえなかったのか、ハグリッドがダーズリー批判を始めた。
それを声を張り上げて遮る。
だって、なんでハグリッドがハリーと買い物に?ジェームズとリリーがいたなら、普通二人と買い物に行くでしょ? 内心焦りながら、目を丸くしたハグリッドにずいと近寄って問いかけ、

「ハグリッド、帰っておったのか」

突然、会話に参入してきた声に背後を振り返れば、一体いつそこに現れたのかダンブルドアが立っていた。
本当にこの爺さんは神出鬼没で心臓に悪い。
心臓が不整脈を打つのを感じながらも、極力表情には出さないように努めながら見上げる。
当の本人はハグリッドを見て、手紙は届けられたかを尋ねていて、ハグリッドは首尾良く言ったことを告げ、
「両親に会って、ハリーはちょっと戸惑っちょりましたが、良い雰囲気でした」
続けてそんなことを言った。
それまでは視線をそちらに向けずに耳だけ欹てていたけれど、その言葉にばっと上を向いて、
「どうやら、話の内容が気になるみたいじゃの、
目を細めて笑うダンブルドアと目が合ってしまった。
違いますと言い返そうとして、だけどダンブルドアの前ではすべて見通されている気がして、
「気になります。ハリーのこと……ハリーの両親のこと、教えてください」
はっきりと、思ったことをそのまま告げることにした。
そう言えばダンブルドアが満足そうに一つ頷いたから、やっぱりこの人は私の本心を見透かしていたのだろう。
今後はもう少し警戒心を強くしようと心の中で決めながら、ダンブルドアの話に耳を傾ける。

闇の帝王の名前、彼がしたこと、魔法界への影響。
ダンブルドアの語る話はほとんどがすでに知っていることで、一番知りたいことはなかなか語られなくて。
それでも辛抱強く聞き続ければ、ようやくヴォルデモートがハリーを殺そうとしたことに触れた。
「その時、ハリーの両親はヴォルデモートに死の呪文をかけられたんじゃ」
重々しい口調で言ったきり黙ってしまったダンブルドアに、ごくんと唾を飲み込む。

「で……でも、二人は生きているんですよね?」
「そうじゃ。まことに信じられないことに、ポッター夫妻の体は何の異常もなく健康体そのものだった」
「そ、そうなんですか……」
聞きたかった回答に、息を吐いて肩を撫で下ろす。
良かった。ちゃんと生きていてくれた。
この世界に来た一番の望みが叶っていたこと。それがものすごく嬉しくて、思わず目が潤みそうになった。
けど、それをなんとか抑えてダンブルドアの息を吸い込む。
「二人は死の呪文を避ける魔法でも?」
「いや、死の呪文に打ち勝つ魔法などない。二人も確かに死の呪文を受けたと話しておる。なのに、なぜ助かったのか。――――それは分かっておらんのじゃ」
分からない。そう言うまでに少し間があって、多分もっと分かっていることがあるのだと直感的に思った。
まあ、それは当然かもしれない。なんてったって、まだ出会って1日と経っていないんだから。
でも。

「あの、もう一つだけいいですか」
「わしに答えられることなら構わんよ」
「……両親が生きているのに、どうしてハリーは親戚の家へ?」
個人的には、あの家で育ったから原作の打たれ強いハリーになったんだと思うから、ある意味歓迎なんだけど。
また少し間が開いたから、答えてもらえないかもと思い始めた頃、ようやくダンブルドアが口を開いた。
「実は両親は魔法がうまく使えなくなってしまって、療養が必要になったんじゃ。そしてその療養期間中、ハリーを他の者に預けることになったんじゃが、魔法界の人間に預けるにはハリーは有名になりすぎた。そこで、マグルである母親の妹夫妻にハリーを預けることにしたんじゃ」
魔法がうまく使えない……。
思いもしなかった理由に黙り込むしかない。まさか、そんなことになっているなんて。
「心配せんでも大丈夫じゃ。もう療養はばっちり終わっておる」
黙り込んだ私を見てどう思ったのかは分からないけど、フォローするその声はひどく優しい。
「そして今日、ハリーは11歳になって無事に両親と再会した。今頃、幸せな時間を送っているじゃろう」
「……はい。色々教えていただいてありがとうございました」
抱いていた疑問はすっかり解消されて、感謝の気持ちを込めて深々とお辞儀をする。

「役に立ったようでわしも嬉しいわい」
顔を上げれば柔和に微笑む青の瞳に、高めたばかりの警戒レベルが急落するのを感じて、呆れたように笑ってしまった。
彼に関する近況報告