眠りに落ちる前にも見た天井に、起床早々、重たい息を吐き出す。
夢じゃなかったか。
数時間前と同じく柔らかいソファの上で体を起こし、目に入るのが校長室だと分かって、また一つ息を吐く。
「フォークス、おはよ」
ぐるりと何の気なしに部屋の中を見回したら、止まり木のフォークスと視線がかち合って挨拶をしてみた。
そしたら、フォークスが機嫌良さそうな声で返事をしてきた。
本当に警戒してないんだな、フォークス。
優しい目をした不死鳥に、昨夜のダンブルドアの言葉を思い出す。
ついでにその後に起こった事やら話した事やら、全部の事が芋づる式に思い出された。
「うあぁぁ……くそ、なんでこんなことに……っていうか、短時間に色々ありすぎでしょ。どんだけ盛り沢山なのよ」
次々と鮮明に蘇ってくる濃すぎる記憶に頭を抱えて、苦悶の声で呻る。
「――っていうか、ダンブルドアは?」
一頻り呻りながら、脳内メモリーの許容量オーバー寸前だった記憶を整理整頓した後、部屋の主がいないことに気がつく。
顔を上げてまた部屋を見回せば、窓から差し込む夕焼けの光が目に刺さった。
その眩しさに思わず手で光を遮って、はたと気づく。
「もしかして・・・、夕方?」
もしかしなくてもそうでした。寝過ぎだ、私。
おかしいと思ったんだよ、普段なら寝起き最悪の私が不機嫌になるでもなく一回で起きたんだもの。半日以上も寝れば、そりゃあ一回で起きますよ。
自分の睡眠時間を自覚したと同時に気怠さが襲ってきて、本日数度目の溜め息を吐き、
「どうした、?溜め息なんか吐きおって」
「っ!!?」
突然背後からかかった声に、心臓が跳ねた。
その一瞬後にばっと後ろを振り返れば、そこにあったのは壁だった。
「ハ…ハグリッド、さん」
「よぉ、。ダンブルドア先生はどこにおる?」
訂正、壁みたいなハグリッドでした。
全然、ドアの開閉音とか足音とか聞こえなかった。
そのことを不審に思ったけど、ハグリッドがダンブルドアの所在を尋ねてきたから考えるのをやめた。
「さっき起きたら見当たらなくて。丁度、どこにいるのか探そうと思ってたところです」
ソファから飛び降りて、一歩じゃ足りなくて数歩下がってからハグリッドを見上げる。
その歩幅の狭さにまた自分の現状を思い知らせて、地味に凹んだ。
「そうか。ダンブルドア先生に、ハリーのことを知らせようと思ったんだがな」
だけど、返ってきた言葉に瞬時にそんな気持ちは無くなった。
「ハグリッドさん、一つお聞きしたい事が」
「なんだ?それと、そのハグリッドさんっちゅうのはやめてくれんか」
「分かりました。じゃあ、ハグリッド。ハリーって誰なんですか?」
代わりに湧いてきたハリーに関する情報を得たい気持ちに、知らないフリをして問いかける。
「お前さん、ハリーの事を知らないんか?あの有名なハリー・ポッターを?」
「有名人なんですか、そのハリーって人?」
首を傾げて見せれば、ハグリッドは心底驚いた様子で目を丸くした。
そりゃ驚くよね。魔法界の人間なら子どもでも知ってる超有名人を知らないなんて言うんだから。
っていうか多分、現実(この場合は死ぬ前の世界)でもハリー・ポッターを知らないって言ったらそこそこ驚かれると思うんだけど、どうだろうか。
そんなことを考えて、ハグリッドの声に耳を傾けた。
夕方の目覚め