Magic school admission-into-a-school certificate

私の身長、140cmくらいかな。……ってことは年齢的には中学入学前後ってとこか。中学2年で馬鹿みたいに身長が伸びたし。
──で、なんでこんなことになってんの。
冷静に分析をして落ち着こうとしたけど、逆に落ち込んでしまった。
受験に合格したと思ったら死んで、死んだと思ったら自称神様に出会ってトリップさせてあげるなんて言われて、ポッター夫妻を助けたと思ったらダンブルドアの部屋にいて、しかもなんか子どもに戻ってるし。
ほんとになんなのよ。ついて行けない。
次々と突きつけられる現実に頭を抱えそうになった時、どこからかドタドタと大きな音が聞こえてきた。
そしてそれがドアの向こうからだと分かった直後、
「ダンブルドア校長先生っ!今から、ハリーに手紙を届けに行ってきますです!」
ばたんっと派手な音を立ててドアが内側に開いて、ハグリッドが興奮気味な様子で入ってきた。
近づいてくる彼の大きさに圧倒されていたら、つぶらな黒目が私を見た。
ハグリッドの目は、たしか原作では黄金虫って比喩されてたはず。
「お前さんは誰だ?」
ハリーも初めて会った時は言葉も出ないくらいビックリしたのかなと考えていたら、ハグリッドが警戒した声で問いかけてきた。
まぁ、普段生徒が立ち入らないはずの校長室に、明らかにホグワーツ生の格好じゃないやつがいたら不審に思うよね。
しかも、入ってきた時の「ハリーに手紙を届ける」って台詞からして、今は夏休み中みたいだし。
なんとか思考は外見が幼稚化したショックから立ち直りつつあるようで、スムーズにそれらのことを考えることが出来た。
です」
「じゃあ、。なんでお前さんはここにおるんだ?」
「えっと…それは、ですね…」
返ってきた問いに言葉を濁す。
なんでって私も知らないし。かといって、それをそのまま伝えてもハグリッドが理解するとは思えないし。
どう答えたら上手く切り抜けられるか。
大学受験が終わって以来、一番じゃないかと思うくらいに思考をフル回転させて、

はわしの養子なんじゃよ」

ダンブルドアの笑い混じりの声に、彼を仰ぎ見る。
「ダン――」
「養子、ですか?」
「そうじゃ。今日から城に住むことになったんじゃ。9月からはホグワーツ生になる」
「は?」
「そうだったんですか。、よろしく頼むな。俺は森の番人をやっとるハグリッドっちゅうんだ」
待って。なんで勝手に話が進んでるの。
あまりの話の早さにがしがしと頭を撫でられながらダンブルドアを見れば、茶目っ気たっぷりのブルーの目があった。

あ、やっぱりこの人苦手だ。
色々あってすっかり忘れていたダンブルドアへの評価が、不意に頭に浮かんできた。
私の中でダンブルドアは、嫌いじゃないけど好きでもないランキング堂々の一位に君臨しているんだったよ、そういえば。



「さっきの、何なんですか」
ハグリッドを送り出した後、非難の気持ちを隠すことなく、不愉快さ満点の声で問いかけた。
「私、魔法なんて使えませんよ」
こっちを見てくる、相も変わらずキラキラと輝く目を睨みつける。
「そんなことないじゃろ。わしの勘が、君は魔法が使えると言っておる」
だけど私の視線なんて全く意に介した様子もなく、上機嫌な笑みを浮かべながらダンブルドアが言う。
その余りにも根拠のない答えに、何を適当なことをと怒鳴り返そうとして、
「それに、君には行く当てがないんのではないかい?」
そう言われて、ぐっと言葉に詰まった。

さっきから考えてはいたんだよ。
今の私には行く宛てどころかお金だってほとんどない。それなのにどうやってこの世界で生きていくのかと。
どういう意図で10年の時間を飛ばしたのか分からないあの神様が、そこまで手配してくれているとは考えられなかった。
その状況でダンブルドアの言葉は、まさに渡りに船だった。
だけど、ダンブルドアのブルーの目を見つめ返して、私はどうしても首を縦に振ることが出来なかった。
なぜなら、ダンブルドアの目は透き通っていて少しの曇りもない綺麗で、だけどその目が私は嫌いだったから。
いくら真意を読み取ろうとしても全然出来なくて、知らずに私の眉根は皺をつくる。
「確かに貴方の言うとおり、私は行く宛ても一人で生活していくお金もありませんし、その提案はとても有り難いです。だけど、魔法の使えない、存在する資格のない私を置くのはどうかと思います」
向けられる行為を突き放ように一息に言って、ブルーの目の変化を捕らえようとじっと見つめて、

は魔法が使えるよ」

柔らかく細められた目に、喉元までせり上がってきた言葉を飲み込む。
何を根拠にそんなことを言ってるの。
そう問い質したい気持ちとともに胸の中にあったのは、私にも魔法が使えるのかという期待。
「老いぼれの勘を信じてみてはくれんかね?」
ダンブルドアはかすかに微笑んで、どこから取り出したのか一通の封筒を私へと差し出してきた。
それを受け取るということは、ハリーポッターの物語に本格的に踏み込んでしまうということ。
ホグワーツの紋章から目を逸らさずに、頭の中で考える。


魔法が使えるかも分からない。
ダンブルドアは使えるって言ってる。

図り間違って死ぬかもしれない。
既に死んでるんだから、別に構わない。

ダンブルドアの言葉には何か裏があるかもしれない。
だけどこの話を受ければ、彼等に会える。


否定する思考が浮かぶたびに、否定の言葉を被せる。
その度に、ドキドキと心臓が鼓動を増して、握りしめた手にはじんわりと汗が出てくる。

「さあ、どうするかね?」
その声に、目を閉じて大きく息を吸って、そして真っ直ぐとブルーの目を見返す。
「魔法使えなかった時は、ちゃんとフォローしてくださいよね」
受け取った封筒の重みに、かつて一度だけ感じたことのある異様なほどの胸の高鳴りを、確かに感じた。

魔法学校入学許可証