04 ; Rejuvenation which is not glad

体の下にふわふわを感じて目を開ければ、随分と高い天井が視線の先にあった。
「……どこ?」
寝起きのぼんやりとした頭で逡巡して、口にしたのはそれ。
だけど答えが返ってくることはなく、視線を横へと移していき、
「うわぁ……」
壁に掛けられた幾つもの肖像画に、思わず疲弊した声が出た。
額縁の中の人物がぐうすか寝てる場所なんて、そんなとこ一つしか思いつかない。
目を閉じてから息を吐き出して、吸って。
瞼を開ければ、目に映るのは同じ光景。
「なんで、ダンブルドアの部屋にいるのよ……」
横になっていたソファの上で体を起こし、眉間を押さえる。
私はゴドリックの谷で意識を失ったはずなのに。
その後のことを思い出そうとしても、記憶は意識が暗転した時で途切れている。

わけが分からない。
息を吐き出して、記憶を探るのをやめる。
その代わりに、さっきから少しずつ大きくなってきた好奇心に従うことにした。
ソファから立ち上がり、壁側へと歩いて行く。
額縁の中の歴代校長達を起こさないように足音を潜めて歩き、一つの肖像画の正面で足を止める。
フィニアス・ナイジェラス・ブラック。ホグワーツの校長の中で最も人望がなかったという、シリウスの高祖父の前で。
他の肖像画と同じように寝息を立てて眠る彼を、少しの間じいっと見つめる。
シリウスが死んだと聞かされた時、彼はどんな気持ちでブラック邸に行ったのだろうか。ふと彼の心中に思いを巡らせたけど、すぐにやめた。
人の寝顔を見つめるなんて趣味が悪いと思いつつ、部屋の中を見て回ろうかと体を反転させ、

「随分と熱心に見ておるの」

目の前にいた人とかけられた声に、ひっと息を呑んだ。
見開いた目に映るのは、とても長い銀の髭と髪。
腹黒策謀爺、もといアルバス・ダンブルドア校長が目の前にいた。

校長室だって分かった時からいるかもとは思ったけどね。なにも心の準備をしていない時に登場されたら流石にびびった。
「おぉ、すまぬすまぬ。驚かせてしまったようじゃな」
「い、いえ、そんなことないです……て」
朗らかに謝られて、どもりながらだけど口を動かし、途中ではたと気がついた。
そういえば、不法侵入者じゃないか、私。
気づいた瞬間、さぁっと顔から血の気が引いた。
「あ、あのっ、私、決して不法侵入とかじゃないです!気がついたらここにいて……!」
「分かっておるよ」
必死になって弁解するとやさしい声に遮られて、口を閉じる。
不安な気持ちのまま見上げれば、ダンブルドアはかすかに微笑んでいた。
「あの、私は……なんでここに?」
「それはわしにも分からぬ。夕食を終えて戻ってきたら、君がソファで寝ておったんじゃ」
分かってるなんて言うから、なんで私がここにいるのかを知ってるかと思ったのに、否定されてしまった。
というか、分からないのに私の言い分を受け入れるなんて、何を考えているんだろうこの人は。

「あそこにおるフォークスが、君の傍におったんじゃよ」
耳に入ってきた言葉にテーブルの傍にある、金色の止まり木に目を向ける。
そこには、赤と金の羽の美しい不死鳥がいた。
「綺麗……」
実際に目にしたフォークスの美しさに、思わず口をついて感嘆の声が出た。
「そうじゃろう。フォークスは不死鳥なんじゃよ。あれは実に美しい。そしてとても忠実な鳥での」
同じようにフォークスを見ながら、ダンブルドアが嬉しそうに語る。
「そのフォークスが、見知らぬ君の傍におった。それも随分と優しい顔をしながらの」
「だから、私の言葉を信用するんですか?」
愛鳥が警戒しないからというそれだけの理由で、見知らぬホグワーツの生徒でもない人間を信用するなんて。
原作で色々やってたダンブルドアが、そんな単純な人物だとは到底思えない。
それとも、あの自称神様の力で、私の都合の良いようになっているのだろうか。
「もちろん、それだけではない」
後者なんじゃないかと思い始めた時、ダンブルドアが言葉を返してきた。
「あれほど必死に潔白を証明しようとした君を、疑おうとは思わんよ」
そう言って、ダンブルドアはほっほっと笑う。
根拠のない理由にぽかんとして、それから肺の中の空気を全部出してしまう深く息を吐き出す。
原作でもそうだけど、本当にこの人は何考えているのか分からないわ。
そう考えたら、色々と考えていたことが馬鹿らしく思えてきた。

です」
顔を上げて、ブルーの瞳を真っ直ぐに見つめて、はっきりと名乗る。
どうとでもなれ。そんな自棄な気持ちもあったけど、心の中はとてもすっきりしている。
「アルバス・ダンブルドアじゃ」
半月形の眼鏡の向こうで、キラキラとしたブルーの瞳が柔和に細められた。
「よろしくたのむの、
そうして差し出された手に、下ろしていた手を持ち上げて、
「……あれ?」
違和感を感じて、途中で手を止める。
なんか違う。
ダンブルドアの手を無視して、自分の手の表と裏をまじまじと見て、気づく。
小さい。
少なくとも、高校生の手とは思えない。
え、なんで?
にわかに頭が混乱し始めた時、そういえばとダンブルドアを見上げる。
ダンブルドアってこんなに大きかったっけ?
たしかに長身ではあったはずだけど、私だって170近くあるから、首が痛くなるほど見上げなくても良いはず。
そこまで考えた時、自然と一つの結論が思い浮かんできた。
、どうしたのじゃ?」
「あの、ダンブルドアさん。一つお聞きしたいんですが……私、何歳に見えますか?」
それは突然の質問で、さすがのダンブルドアもすぐには理解できなかった。
だけど、どうしてそんな質問をしたかは問わずに、答えを返してきた。

「10歳くらいかの」

嫌な予感的中。
いくら欧米人からしたら低年齢に見られやすい東洋人でも、170cmの人間を10歳と思うことはないはず。
つまり、これは。
「容姿が気になるのかの?」
「ええ……」
問いかけにぎこちなく頷けば、ダンブルドアは杖を取り出した。
そして軽く一振りすると、すぐ横に大きな姿見が現れた。
目を閉じて大きく深呼吸をして、静かに横を向く。

そこに映っていたのは、高校の制服を着ているとても小柄な女の子だった。
つまり、身長が縮んで顔の作りも幼くなった私だった。

ご丁寧に制服も体に合わせて縮んでいる。小さくなってなかったら色々と問題があったから良かった。
「次から次になんなのよ……」
鏡面に触れて、がっくりと肩を落とし、どうにでもなれと思った少し前の自分を呪った。

嬉しくない若返り