02 ; Good-bye, it abhorred.

「……あった」
呟いた声には無意識に安堵が混じる。
それに気づいてちょっと眉を寄せ、視線を掲示板に貼られた番号から逸らして踵を返す。

今日は3月のよく晴れた平日で、私は第一志望としていた大学に合格した。
校門へと向かう背中には歓喜と悲嘆が入り交じった声がぶつかってくる。
それを遮るためにポケットに入れた携帯を取り出してイヤホンを耳に差し、音楽を流し始める。

(これであの人達と離れられるのか)
そう考えると胸の奥の方が少し揺れる。だけどそれは別に高揚の感情ではない。
自分が思っていた気持ちがわかないことを不思議に思いながら大学の敷地外へ出る。
すぐ前の信号は赤。
横断歩道ぎりぎりのところで立ち止まり、そっと息を吐き出す。
車が通る音でイヤホンから音楽は聞こえず、音量を上げれば聞こえてきたのは静かな音。
心のモヤモヤを晴らすためにも大好きなその音に浸ろうとして、


聞こえてきたのは、車のブレーキ音。


「え?」
やけに近くから聞こえてきたそれらに目を見開けば、飛び込んできたのは青い空。

体が軋む音に、何かが切れる音。
衝撃と、浮遊感。
これはなんだと疑問を浮かべる一方で、あぁと自分の未来を悟る。

────私は、死ぬんだと。

視界の中にアスファルトの灰色が入ってきて、これに叩きつけられたら痛いだろうななんて人ごとのように思って。



最後に私が聞いたのは、イヤホンから流れてくるハリー・ポッターの音楽だった。

さようなら、

大嫌いでした