At a tea party

「本日は素敵なお茶会にお招きいただき、ありがとうございます。お誘いいただけたこと、心から光栄に感じますわ」
「こちらこそ来ていただいてありがとう。どうぞ最後まで楽しんでいかれてくださいね、様」
ドレスの裾を摘み、軽く膝を曲げて挨拶。こういう挨拶久しぶりだなぁなんて思った時。
「……ふふっ、ふふふっ」
「なぁに笑ってるんですか、レイラ様」
「だって……ぷふっ!様って、それにレイラ様って……あはははっ」
「ひどいっ!そんなに笑うこと……ぷっ、ないじゃない」
「あははっ、なによ!そう言うだって笑ってるじゃない」
肩を震わせて笑うレイラの指摘にパッと口元を隠す。レイラの笑いにつられそうになったのを隠したつもりだったんだけど呆気なくバレてしまった。

今日はレイラの家でお茶会。主催者であるレイラが挨拶に来たから社交界用の挨拶をしてみたのだけど、対レイラではいつもは使わない呼称も敬語も笑いの種にしかならなかった。



「それにしても、まさかが参加するって返事をくれるとは思わなかったわ」
しばらく2人で声を潜めて笑った後、レイラは目の端に浮かんだ涙をハンカチで拭きながらそう言う。
(だってあんなこと書かれたら、来ないわけにはいかないじゃない。)
レイラからお茶会の招待状が届いたのは、ジョージへの手紙を書いてから4日後のことだった。
が来てくれるのを楽しみにしているわ』
文末に添えられたメッセージに、参加の返事を手紙を持ってきた梟へ渡すには時間はかからなかった。

「レイラが主催のお茶会だからね。断るわけないでしょ」
「去年のクリスマスは断ったじゃない」
「去年は去年」
鋭いツッコミはスルー。クリスマスはレイラの親が主催のパーティーだったからそんな気分にならなかっんだもの。もう、そんな批難する目で見ないでちょうだい。レイラからの視線を逸らしながら「それに」と言葉を続ける。

「もしかしたら、気が合う人を見つけられるかなぁと思って」
──そう。このお茶会で新しい交友関係を開拓すること。それが、去年までは自分から出席することのなかった社交の場に足を運んだもう一つの理由。

1年生で抱いた同寮生への苦手意識や2年生の休学が原因で、学校で友だちを作ることも積極的に社交の場に出ていくこともしたくなくなっていた。
だけど昨年ハーマイオニーとのガールズトークの時に、寮も出自も関係なく交友していた母へのあこがれの気持ちを思い出して、そして少しずつだけど親しい人が増えていったことが嬉しくて。

私が頑張れば友だちができるかも。素敵な人と巡り会えるかも。
そんな風に思うようになった時にレイラからの誘いが来たものだから、まずは最初の一回目と思ってお茶会に参加した次第だったりする。

「良いじゃない。時間はたっぷりあるから頑張って」
「うん」
レイラのどこか嬉しそうな声に少し照れくささを感じながら、テーブル上のジュースのグラスへと手を伸ばす。

「そういえば、ウィーズリーとは連絡とったりした?」
そこで出て来た名前に危うくグラスを倒しかけた。慌ててレイラの顔を見れば、いつもの澄ました顔。

まさかレイラの方からジョージの話を振ってくるなんて。休暇前にジョージのことを伝えた時はあいつと友達になるなんて頭大丈夫?!って感じだったのに。
「な、なんでレイラがそんなこと聞くの…ていうか貴女、私がジョージと親しくなったの、嫌な顔してなかった?」
「そうだったけど、やめた。の交友関係に口出しするの、今更って感じでしょ?」
驚きと動揺が思いっきり顔に出てしまう。レイラが遠くを見ながら言葉を続ける。
「考えたら、が仲良くなったのってよりにもよって!って相手ばっかりじゃない。だから例え相手があのウィーズリーでも反対したところでムダだと思ってね」
レイラの言葉に『よりにもよって!』なメンバーを思い浮かべる。魔法界の英雄にウィーズリーの末の弟にマグル出身の優等生。言わずもがな全員獅子寮生。なんともまぁ、スリザリン生なのになぜ?っていう面子とばかり親しくなったものだ。例外はハンサム王子くらいか。

「よっぽどのこと以外は口出ししないつもりよ。でも、どうなったのかちょっと気になったから聞いてみたわけ」
「そっか」
「ええ。それで、どうなの?」
グラスをこちらへ渡しながら、レイラは再び聞いてきた。それを受け取って一言。
「10日くらい前に手紙を書いたわ。教科書リストが来たわねって」
「ああ、教科書ね。そういえば今年のリストはすごかったわね。ロックハートばっかり……今度の防衛魔法術の教師、絶対女だわ」
それは私も思った。新しい担当教師は相当なロックハートファンなんだろうな。それにしても彼の本って自叙伝が多かったはずだけど、授業で使えるのかしら。
「ってそれはいいのよ。返事はなんて?」
「来てないわ」
話が逸れそうになったけどすぐに引き戻された。それに対して、端的に答えを返す。レイラが驚いたように目をパシパシ瞬かせる。
「本当に?」
「ほんとよ。返事は来てないの。全く音沙汰なし」

誤魔化しでも嘘偽りでもなく、ほんとのほんと。ジョージから返事は来なかった。
いきなり送りつけた手紙だったし、返事を期待してたわけじゃない……こともなかったから、日が経つにつれてそこそこ落ち込んだ。
でも仕方ないのかな。親しくなって日も浅い相手からの突然の手紙だし。返事ちょうだいとも書かなかったし。

「返事が来るまで呪いの手紙でも送りつけてみる?」
「やめてちょうだい」
レイラの嫌がらせの提案を即座に断った時、彼女を呼ぶ声がかかった。
途端に社交の顔に戻ったレイラ。さすがだなぁ、感心しながら見送りの言葉をかける。
「じゃあ、またね」
「ええ。良い人が見つかると良いわね」

離れる前にレイラが1つ問いかけてきた。
「ちなみに、の求める気の合う人って?」
「他寮生とかマグルとかを馬鹿にしない人」
「がんばって」
私の求める交友相手を聞くとレイラは苦笑いをしてそのまま離れていった。


「さてと。私も行きますか」
呟いて小さく拳を握る。せめて1人くらい仲良くなれたら良いな。


お茶会にて