Dear Sirs,

こんにちは、ジョージ。

お久しぶりです。夏休みも残り1ヶ月を切ったけれど、いかがお過ごしかしら。
宿題は進んでる?まさか悪戯グッズの研究ばかりしてないわよね?結構難しい課題もあったから、早めに手をつけた方がいいと思うわよ。新学期にあなたたちが先生方から叱られないことを祈っているわ。
そうそう。今朝、ホグワーツから新学期の教科書リストが届きました。あなたの家にも届いた?
実は、教科書リストを読みながらジョージのことを思い浮かべたの。それで、ちょっと手紙でも書いてみようかなんて思って、こうして綴った次第なの。

新学期に会えるのがとても楽しみだわ。どうか残りの休みも元気に過ごしてね。


より……っと」
最後に自分の名前を綴り、深く息を吐く。やっと書き終わった。

文面にも記したように、ホグワーツからの手紙がきっかけでジョージに宛てて書いた手紙。
「うわ、もうこんな時間」
机の上の時計を見て驚く。まさか一時間も書いていたなんて。
まあ、あーでもないこーでもないと迷いながら一言ずつ書いていたからなぁ。

「……文章おかしくないわよね」
呟いたらたちまち不安な気持ちがわいてくる。
そもそもこんな手紙を送ること自体どうなのかしら。いくら最後にファーストネームで呼んでくれたとはいえ、汽車に乗るまでの数分しかまともに話していないような相手から急にこんな手紙をもらって困らないかしら。ううん、困るならともかく、『なんだコイツ、馴れ馴れしいな』とか思われないかしら。
書こうと思った時も書いている間も浮かばなかったマイナスな想像に、封筒に伸ばした手が止まる。

(……とりあえずおかしな所がないか確認しよう)
なんとか気持ちを鼓舞して読み返そうとした時、ホーッ!と鋭い鳴き声が一つ。弾かれたように顔を上げれば窓際に止まった茶梟が恨めしげな目でこっちを見ていた。
一体いつまで待たせるのか。私が幼い頃から仕えているお局的存在である梟の強い眼力に、反射的にぴしっと背筋が伸びて不安な気持ちが飛んでいった。
「ごめんなさい」
自然と謝罪の言葉を述べていたことに気がついて、おかしくて口元が緩んだ。
大丈夫。きっとジョージは手紙を読んでくれる。
用意していた白い封筒に便箋を入れ蝋で封をする。封筒の表にはジョージの名前。裏には──。

「ホーッ!」
「わかった、わかったから」
手が止まると同時に梟がカチカチと嘴を鳴らすものだから、急かされるように自分の名前を書いた。これ以上待たせたら機嫌を損ねて手紙を届けてもらえなくなりそうだ。出来上がった手紙を手に梟の所に向かう。ようやく終わったか。不遜な態度で差し出してきた脚に手紙を結びつける。

「よろしくお願いします」
待たせたお詫びにいつもより念入りに羽を撫でる。返ってきた鳴き声はさっきより柔らかい。少しは機嫌が良くなったみたい。
窓を開けるとむわっとした夏の空気がたちまち部屋の中に流れ込む。ああ、今日も暑い。

そんな空気を払うように鋭い視線で前を見据え、バサッと大きな音を立てて翼を広げる。そして力強く羽ばたくと、あっという間に絵の具で塗りつぶしたみたいな真っ青な空へと飛び立って行った。


拝啓、