Become good friends than I'm sure now

「レイラ、お待たせ」
「いいえ。忘れ物はない?」
「うん。行こう」
談話室で待っていたレイラと一緒に地上へと繋がる階段を上る。一段上がるにつれて大きくなるざわめき、大きな窓から差し込む柔らかな光に目を細めた。この空気ともしばらくさよならだ。

「絶対に不正だわ」
寂寥感を覚えていたら横から心底不機嫌な声。レイラの視線を辿った先にあった砂時計に思わず苦笑がこぼれた。


数日前の学年度末パーティーの最中、我が寮の寮対抗杯獲得の連続記録が止まった。
阻んだのは、グリフィンドール生4人による駆け込みの加点。その生徒達は言わずもがな、ハリー。そしてロンとハーマイオニー、それからロングボトム。
緑の垂れ幕が一瞬で真紅に変わった瞬間をはっきりと思い出して、苦虫を噛んだような気持ちになる。レイラほどではないけど私だってダンブルドアに文句を言いたい。だって意地悪でしょ!一度持ち上げておいて叩き落とすなんて!

「来年は絶対にうちが優勝するわよ」
大広間に入った時には見飽きたって言ってたのに。レイラの決意を込めた呟きにちょっとおかしさを感じたけど、悔しいのは私も同じ。
「ええっ、頑張ろう!」
ぐっと拳を握って笑いかけた。




「おや、これはこれは。我がグリフィンドール寮に大逆転負けしたお嬢様方じゃないですかぁ」
舟乗り場に向かう生徒たちの流れに乗って歩いていたら、道の脇から声をかけられた。声の出所を探すより先に、ニヤニヤと笑うウィーズリーの双子とドレッドヘアの3人が行き先を塞ぐように歩いてくる。
瞬間、隣から漂ってきた凍てつく空気に背筋が伸びる。レイラが一体どんな顔してるのか、横見るのが怖い。
「英雄ハリーポッターと僕達の弟、そしてその友人達の活躍で負けたなんて、パーティーでは一体どんな心境だったんだい?」
鼻高々、心底自慢げな表情が神経を逆撫でして絶妙にイラっとさせる。
ハリー達の活躍が評価されたのは嬉しいけれど、連続優勝を止められたのはやっぱり悔しい。あんたらが偉そうにしないでよ、そう言い返そうとした時。

「……ダンブルドアの情けと贔屓で加点されたくせに、随分と偉そうなのね」

レイラの低く平坦な声にひぃっと息を呑む。やばい、これは相当頭にきてる。

どうやらウィーズリー達も賢明にも自己防衛センサーを発動させたらしい。お互いに目を合わせるとそれ以上煽り文句を言うことなく、「来年も僕達が勝つからな!」そう言い残して足早に人波の中に紛れていく。
運のいい奴らだとこと。
遠ざかる背中にべぇっと舌を出した時、赤毛の片割れがこっちを振り返った。青い瞳と視線が交わる。
「ジョ…ッ」
咄嗟に名前を呼びかけ、全部音にする前に唇を閉じた。
(レイラの前でジョージとは話せない……っ!)


『レイラ!私、ジョージ・ウィーズリーと友達になったの!』
『……は?』
ジョージと友達になった日の夜。ジョージのことを話した時のレイラの固まった顔はまだ記憶に新しい。
『確かに友達作りなさいとは言ったけど、どうしてよりにもよってウィーズリーなの!?何を血迷ったの、考え直しなさい!』
しばしフリーズした後、信じられないものを見るような目でまくし立てられたのもしっかり覚えている。


そんなレイラの目の前でジョージに友好的な態度を見せたら、ただでさえイラついている彼女がどんな反応を見せるか……想像に難くない。
(親友の機嫌と新しい友人のどちらをとるか。)

「ジョージ?早く来いよ!」
「あー……、悪いっ先に行ってくれ」
人波の向こうから聞こえてきた声とこちらを気にする視線にどうしようか悩んで、
「レイラ」
伺うように見つめると、レイラは不機嫌に唇を歪めてそれからはぁっと息を吐く。
「……コンパートメントとっておくわ。早く来なさいよ」
「うん、ありがとう」
お礼をするとまた溜息をこぼした。
それで気持ちの切り替えをしたらしい。肩にかかった髪を払い、背をピンと伸ばして先へ行く。その後ろ姿の綺麗さに魅入る。さすが上流階級の令嬢。歩く姿はなんとやらだ。
レイラがジョージの横を通り過ぎる時、ジョージの顔が少し引きつった。何か言われたのかしら。

少し待ってから歩き出す。ジョージが近づくにつれて胸の高鳴りが大きくなる。友達になったとはいえ、こんな風に話しかけようとするは初めてで変に緊張してきた。
「……どうも」
すぐ前で立ち止まり、ジョージに向けて笑顔を作る。緊張でぎこちない笑みになっているのは大目に見てほしい。
「……おう」
ジョージから返ってきたのはずいぶんと短い声。
それっきりジョージは黙ってしまう。ああ、折角レイラから時間をもらったのに。何か話そうと考えるけど、うまい糸口が見つからない。
「行こう。舟が出ちゃう」
「あ……えぇ」
ジョージに促されて再び歩き出す。彼との間には一人分の空間が空いている。
周りからは偶然横を歩いていると見える距離。多分、周りを歩いている生徒の誰も、私とジョージが友達関係だとは思わないだろう。

「……君と一緒にいた子」
「レイラ?」
前を向いたままジョージが投げてきた言葉に、同じく前を向いたまま答える。
「その子にめちゃくちゃ怖い顔で睨まれたよ。なんでか分かるかい?」
「あー……」
さっきの顔が引きつった時か。どんな顔をしていたか想像して苦笑がこぼれる。
「貴方と友達になったこと話したの。そっちは?」
「僕は話してないよ。まあ、フレッドはなんとなく気づいているみたいだけど」
「さすが双子ね」
口元を押さえて笑いをおさめる。フレッドのことだ。きっと私に対するレイラと同じでジョージに気でも触れたか考え直せ!って言うんだろうな。

「夏休みはどこか行くの?」
舟着き場への道はそう長くない。答えやすいと思った質問をジョージに投げる。少しでもジョージと話したかった。のに。
「行かないよ。僕の家は君の家みたいに裕福ではないからね」
「なによ、別に嫌みで言ったわけじゃないのに」
にべもない返答に唇を尖らせたら、ジョージがくっくっと笑う気配がした。
「悪戯の研究したり、クィディッチの練習をしたりするさ。あとは庭小人の駆除かなぁ」
「庭小人?」
「ああ。家の周りにいてさ……」
ぽつぽつと話を重ねていたら、気がつけば舟着き場はすぐ目の前だった。
ふと前を見れば、舟を待つ生徒の中にフレッドの姿が見えた。ジョージがふっと息を吐く音を耳が拾う。

──そろそろ時間か。
さすがに生徒達がひしめく中で話し続けるわけにもいかない。
「ジョージ。先に行って」
足を止め、ジョージに先に行くよう声をかける。振り返ったジョージの迷うような表情に笑顔をつくる。
「それじゃあ、ジョージ。また会いましょうね」
まだ汽車に乗ってすらいないのに、早く夏休みが終わったらいいなんて考えているのがとてもおかしい。
フレッドがジョージを呼ぶ声がする。
ほら、早く行かないと。もう一度促そうとした時、ジョージが大股で戻ってきた。
目の前で止まって、大きく深呼吸をするジョージに目を瞬かせる。


「またな、


頭のてっぺんから指の先まで、電撃が走ったみたいな感覚に動けなくなった。
くるり、踵を返して相方の元まで走って行く後ろ姿を何も言えずに見送る。


ジョージの声が何回もリフレインする度に、じわじわと体の奥から歓喜や興奮がにじみ出してきた。
自分の名前がまるで宝石みたいにきらきらしたものに思えるなんて。


今度会う時は、もっと打ち解けて話せるかしら。もっと笑ってくれるかしら。
そんなことを考えては、無意識に口元が綻んでいた。


きっともっと仲良くなれる