「試合開始っ!!」
笛の音が高らかに鳴り響いた瞬間、競技場に溜まっていた熱が爆発した。
空高く舞い上がり、縦横無尽に飛び回る真紅と青。
選手の手から手へと、次々と渡っていくクアッフル。
選手を叩き落とさんと凶暴に動き回るブラッジャー。
そして、それを彼方へと叩き飛ばす赤毛。
全身の神経を研ぎ澄ませて試合に集中する横顔を見上げて、肺いっぱいに初夏の空気を吸い込んで、
「ジョージ、頑張れ────!!!!」
周りの目なんて気にならなかった。喉が痛くなってもひたすらに声を張り上げた。
ジョージに届かなくたっていい。ただ、今だけは精一杯応援したかった。
終わってみれば点差は凄まじく、グリフィンドールの大敗だった。
勝利に沸き立つレイブンクローの観客席と、まるで葬式かと思うほど静まりかえったグリフィンドールの観客席。それは選手も同じで、赤の集団は足取り重くフィールドから消えて行く。
控え室へと行くジョージを見つけて、咄嗟に唇を開いたけれど結局何も言葉は浮かばず力無く閉じる。なんて声をかけたらいいのか分からなかった。
周りのグリフィンドール生達が観客席を後にし始めても、足を動かすことができない。
「、私達も行きましょう」
「うん……ううん、やっぱり先に行って」
そっと声をかけてくれたハーマイオニーに先に行くように促して、誰もいなくなったフィールドを見下ろす。
気づけば先生達も帰って最後の1人になってから、ようやくフィールドから目を逸らすことができた。
応援席から立ち去る間際、レイブンクローのシーカーがスニッチを掴んだ時のジョージの失意に満ちた顔を思い出し、泣きそうなくらいに胸が締めつけられた。
(そういえばグリフィンドールが負けたってことは、今年もスリザリンが総合優勝ってことよね。)今頃寮では勝利を祝っているかもしれない。そのことに思い至っても微塵も喜ぶことができず重たい溜息をこぼす。ああ、こんな気持ちのままじゃ寮に戻れないなぁ。どこかで気持ちを切り替えないと。そんなことを考えながら競技場の外に出た時。
「あ」
ユニフォーム姿のジョージと鉢合わせた。
(なんでこんな時に。)
自分のタイミングの悪さと、試合直後よりも一層悲壮感の漂うジョージの暗い表情に言葉が詰まる。
かける言葉は思いつかず何も言えずにいると、ジョージが先に顔を背けて声をかけるタイミングを失ってしまった。
気まずい沈黙が降りて、意味もなく何度も口を開閉させる。何か言わなければ。そう思うほど思考は混線し喉が乾いていく。
ああ、他の選手はいないのだろうか。フレッドでも来てくれたらいいのに。
「……声」
「えっ、なに?」
まだまだ苦手な片割れの登場すら祈っていたら、ジョージの言葉を聞き逃した。反射的に聞き返すとジョージが私の目を見た。強い意志を灯した瞳に背筋がぴんと伸びる。
「の声、聞こえた」
鼓膜を震わせたジョージの言葉を咀嚼して、理解した途端。
「──っ」
心が震えるほどの喜びがたちまち全身を駆け巡った。
私の声、聞こえてたんだ。
私の声って分かってくれたんだ──!
届かなくていいと思っていたのに、まさか届いていたなんて。押さえようのない感動に?が熱くなる。あまりの嬉しさに鼻の奥がツンと痛くなって慌てる。すごく嬉しいけど、ここで泣くのはない!
「っていうか、君の声でかすぎ。箒から落ちるところだった……って、なにその顔」
「だって、ジョージ、貴方」
必死で泣くのを堪えているところにからかうような声が聞こえて、目を見開く。
「ははっ、変な顔」
失礼なことを言うジョージは緩やかに口の端を上げて、
────笑った。
泣きそうだったのも呼吸さえも忘れて、ジョージのことを見つめる。
瞬きするのさえ惜しい。少しでも長くこの笑顔を見ていたい。目に焼きつけたい。
そんな思いで視線を逸らさずにいたら、不意にジョージが真面目な顔になった。急に空気が緊張感をもつ。急な変化に戸惑う間に、ジョージは視線を泳がせて何度か深呼吸をして。
「あのさ……今更だけどあの時の返事、してもいいかい?」
「!」
あの時がいつを指しているのか。すぐに分かって、胸がドキドキと高鳴る。加速する鼓動に唾を飲み込んで、力一杯頷く。
それを見たジョージは息を吐いて緊張を解く。それから、ゆっくりと唇を開く。
「僕と友達になってくれる?」
照れくさそうに笑うジョージに一瞬で目元が熱くなった。潤む視界の向こうでジョージが慌てるのが見えたけど、溢れる涙は止められない。嬉しい、嬉しい!!胸の中にわき上がる感情に、口元が綻んでいく。
喉が熱くてちゃんと言えるか分からないけど、それでもジョージに答えを伝えたくて空気を吸い込む。
悩む時間なんて必要ない。
だって、答えはもうずっと前から決まっているんだから!!
ともだち記念日