Those that dwell in their eyes

信じられない。

夜の間にハリーが、このホグワーツの城内で例のあの人と戦ったという「秘密」の情報を聞いて、規則違反で150点の減点をされたっていう話を聞いた時よりずっとずっと大きい衝撃を受けた。

「ちょっと、大丈夫?」
レイラの呼びかけでハッと我に返り、すぐにハリーのお見舞いに行こうと決める。
お皿の上によそったものを行儀悪くも口の中に詰め込んで、紅茶で飲み込む。
、そんなに慌ててどこ行くのよ」
「内緒!!」
レイラの呆れたような視線を受けても、気持ちは揺るがなかった。



期末試験が終わり解放感の溢れる廊下を脇目も振らずに真っ直ぐ走る。医務室の扉が見えてスピードを緩めた時、部屋の中から誰かが出てきた。

「ロン!ハーマイオニー!」
!」
近づきながら名前を呼び、声に気づいた2人がこっちを見る。浮かない表情の2人に胸をぎゅっと掴まれたような気持ちになる。
「あの、私…っ」
「ハリーに会いに来たんだろ?」
乱れた呼吸のまま切り出した私の言いたかった言葉を、ロンが代わりに口にした。
「え」
「分かるって」
目を瞬かせる私にぶっきらぼうに言ったロンの、そばかすだらけの頬がちょっと赤い。
「……分かるかな」
「分かるわよ。夜中のこと聞いたんでしょ?残念だけど今はハリーに会えないわ。まだ目を覚まさないの」
眉を下げるハーマイオニーに、またも胸が痛んだ。(ハーマイオニー、そんな顔しないで。ハリーはきっと大丈夫だよ。だって、彼は生き残った男の子なんだから──)そう励まそうと口を開いて、

「ああ、。そんな顔しないで。怪我は薬で治ってるし体力が回復したら目を覚ますって」
「そうそう。マダム・ポンフリーが言うんだから心配ないさ」
だけど、先に励まされたのは私の方だった。安心させるように手を握ってくるハーマイオニーとまっすぐ目を見ながら伝えてくるロンに、不意に泣きそうになった。

初めて会った時は警戒心や敵対心剥き出しの小動物のようだった2人が、私のことを理解して優しい言葉をかけてくれるなんて。
自分で願っていた以上に2人と仲良くなれたことへの嬉しさと、後輩の頼もしさに感動して胸が熱くなる。


「おい。スリザリンがうちの英雄に何の用だよ」
そんな感動の余韻に浸る間も無く、聞き慣れた棘を含んだ声が聞こえてきた。


「フレッド、ジョージ!」
振り返るより先にロンが声の主の名前を呼ぶ。面白くなさそうな表情を視界に入れた途端、感動はいっぺん残らず消えてしまった。
「ちょっと!そんな言い方しなくてもいいじゃない!はハリーのお見舞いに来てくれたのよ」
2人に対して強い口調で言い放ったハーマイオニーに、ぱちぱち目を瞬かせる。(ハーマイオニーってこんな風に喋るんだ。)初めて聞く大きな声にビックリしてしまった。新たに知った彼女の一面にまじまじと見つめていたら、双子の片割れが踵を返したのに気づいて視線を向ける。

「おい、ジョージ。どこ行くんだよ」
ハーマイオニーの剣幕に驚いていたもう一方──フレッドが慌てて声をかけたけど、ジョージは医務室とは反対方向へ進んでいく。
「フレッド、行くぞ。時間の無駄だ」
「ハリーの見舞いは!?」
「今は会えないって聞こえただろ」
食い下がるフレッドに対して返ってくる声は短い。「ジョージのヤツ、なんか変だな」ロンが不思議そうに呟くのが聞こえてきて、心の中で同意する。
なんだろう。ぶっきらぼうに聞こえるけれど、決して不機嫌なわけじゃない。短い言葉の中に熱がこもっているような、そんな気がして。
「それなら、早く練習に行こう」
足を止めて振り返ったジョージに、はっと息を呑む。


「僕達はシーカーがいなくても勝たなきゃいけないんだから」


絶対に負けられない。そんな決意を伝えてくる真剣な瞳に、心臓がどくどくと脈を打つ。
ジョージが再び背を向けるまで、彼から視線を逸らすことができなかった。


その瞳に宿ったものは