Maybe, it is eight.

ハリーとハーマイオニーが規則違反でグリフィンドールの点を大幅に減らした。
そんな衝撃的な事件が起こったのは数日前のこと。



その日の朝の衝撃は未だ忘れられない。寮の得点を記録する砂時計の前にできた人だかりとざわめき。そして、その日の朝食の間に流れてきた噂。
そんな、まさか。ハリーとハーマイオニーが寮を抜け出したなんて。本当に?俄かには信じられなくてモヤモヤを抱えながらウインナーを転がしていたら、ドラコの嘲笑混じりの声が耳に届いた。
「やっぱりあいつら寮を抜け出してたんだ」
「やっぱりってどういうこと?」
突然尋ねた私にドラコはにやりと意地悪い顔をする。
「この前、ウィーズリーが借りていた本の中に手紙が入ってたんだ。夜中に法律違反のドラゴンを引き渡すって書いてあってさ。そしたらこれだ!わざわざこの僕が捕まえてやろうと思ったのに、勝手に自滅するなんてとんだ阿呆どもだよな」
おかしくてたまらないという顔で笑うドラコ。それを聞いていた周りのスリザリン生も同じように笑い出す。(あの子たちそんなことしていたなんて。しかも夜中に抜け出すだけじゃなく、ドラゴンの引き渡し?)ドラコから与えられた情報に頭の中はさらに困惑するばかり。

「っていうか、うちの寮も減点されてたけど、あれはドラコのせいなのね」
そのせいで、そんなレイラの冷たい声は耳に入ってこなかった。



それから今日に至るまで、ハリー達への──特にハリーへの風当たりは端から見てもひどいものだった。
ハリー達を見かけるのは食事の時間だけだったけど、彼らが大広間に現れた瞬間ハリー達の周りだけぴんっと空気が張り詰めたり、全員で無視したり。(しかもそれをグリフィンドールだけじゃなくハッフルパフやレイブンクローもしていたのには驚いた。)唯一ハリーに声をかけるのはスリザリンだけで。と言っても冷やかしたり嫌みを言うためなのだけど。
気の毒なくらい落ち込んで、存在感を消そうとするハリーを見る度に胸の奥がずきずきと痛んだ。

(少しでもハリーを励ますことができないかな……)



「何しに来たんだよ」
睨むように見下ろしてくる目に、思わずその場を立ち去りたい気持ちになった。
(まさかこのタイミングでジョージに会うことになるんて。)

数日考えて、やっぱり一度ハリーに直接会って話そうと思い至った。どこか人目の着かずに話せる場所はないか悩み、思いついたのはクィディッチの練習場。(練習の後に一人でいるところを捕まえよう。)そう決めて練習場の外で出待ちをしていたのだけど。

、何しに来たんだ」
繰り返し問いかける低い声に、ごくり唾を飲み込む。
「ハリーに会いに来たの」
ハリーの名前を出すとジョージの眉がぴくっと上がった。
そして彼が纏う雰囲気が剣呑なものに変わる。ここ数日嫌という程感じたのと同じ色のそれにきゅっと唇を引き結ぶ。

「あいつならもう帰った」
あいつ。不機嫌に言ったジョージに胸中でモヤモヤが急速に膨らんでいく。
「あいつってなに。なんでそんな言い方するの」
そしてその気分のまま言い返したものだから、私の声も不機嫌なものになるのは当然で。ますます悪くなった空気に、頭の片隅の冷静な部分が処世術はどうしたと呆れたように囁く。
仕方ないじゃない。ここ数日抱え続けたモヤモヤにとどめを刺されたのだから。

「僕がハ……あいつのことをなんて呼ぼうが勝手だろ。そんなことより用が済んだならさっさと帰れよ」
そう言うと立ち去ろうとしたジョージの前まで走って行き、行く手を塞ぐ。両手を広げて通せんぼをする私を前にジョージの眉間に深いシワが刻まれる。だけど少しも引く気はなかった。
「終わってないわ。なんでハリーにそんな態度とるのよ。可愛そうだと思わないの」
「はっ!かわいそう!?寮の得点を150点も減らしたんだ!当然の報いさ!」


声を荒げて吐き捨てた言葉に、ぶつんっと何かが切れた音がした。


「ジョージだって、今まで50点くらい減点されてるでしょうが!!自分のこと棚に上げて、後輩の一度の失敗を寄ってたかって攻撃して楽しい!?」
突然怒鳴りつけられ、ジョージのそばかすだらけの顔がかあっと一瞬で真っ赤になった。空気を吸い込んだ唇がはくはくと何度か開閉する。
「だって……っ、ようやくお前らスリザリンに勝てると思ってたのに!なんだよ一晩で150点減点って!そんな点数っ、もう逆転できないだろ!」
負けじと大きな怒鳴り声。怒りか悔しさか、体の横で握った拳がぶるぶると震えている。
それを受け止め少しばかり溜飲が下がったけど、それでもなお胸の中の怒りは収まらない。(確かにハリー達のしたことは規則違反だし大量減点で怒るのはわかる……でも、だからと言っていつまでもハリー達を悲しませてもいい理由にはならないわ!)一歩前に踏み込み、わずかに怯んだ様子のジョージに向けて指を突きつける。


「あなた、クィディッチの選手でしょ!!グリフィンドールが誇るビーターなんでしょ!?それくらいの点差、試合に勝って逆転してみせるくらいの度量を持ちなさいよ!!」


真っ直ぐに言い放った言葉に、ジョージがあっけにとられた顔になった。
何言ってるんだ、こいつ。そんな顔にふんっと鼻を鳴らす。
(敵寮に檄を飛ばして塩を送るなんて、まったく何してるのかしらね!)
自分で自分に対して呆れながらも、胸の中はとてもすっきりしていた。


たぶん、八つ当たり。