「あ、ハーマイオニー」
図書室から出てきたハーマイオニーを見つけて思わず声をかけてしまった。彼女と会うのは随分と久しぶりだ。
「こんにちは。今日は1人なの?」
「はい。さんもですか?」
「でいいわよ。ちょっと散歩してるの」
緊張した様子のハーマイオニーに苦笑する。一対一で話すのは初めてだからしかたないか。
ふと彼女が抱えた分厚い本に気がつく。何の本だろう。尋ねると試験勉強の本を借りに来たとの答えが返ってきた。まだ試験まで日があるのに勤勉な子だ。感心していたら、「あのっ!」ハーマイオニーの方から声をかけられた。
「クリスマスは素敵なプレゼントをありがとう。羽根ペン使ってます」
クリスマス。そういえばハーマイオニーと会うのはクリスマス前以来だった。頭を下げた彼女に胸の中がほわっと温かくなる。
「喜んでもらえて良かった。私こそ美味しいお菓子をありがとう」
ハーマイオニーとロンからもらったお菓子は良いことがあった時に食べる特別なお菓子にしていた。ちなみに、大事に食べ過ぎて危うくカビを生やしそうになったのは内緒だ。
お礼を告げられ、ハーマイオニーの?がポッと赤みを帯びた。ふわふわの栗毛を落ち着かなさげに触る様子がとっても可愛らしい。
「ハーマイオニー、良かったら少しお話しない?」
気がついたらそう声をかけていた。
目を丸くしたハーマイオニーはちょっと考えてから誘いを受けてくれた。
彼女と連れ立って歩き、向かった先は人気のない中庭のベンチ。
さて、何を話そうか。ベンチに座りながら逡巡する。自分から誘っておいて話題を決めてなかった。
(あ、そうだわ。)ふと頭に浮かんだ顔。これを聞いてみよう。
「ねぇ、正直に教えて欲しいんだけど…ドラコってどんな感じ?」
「ドラコ……マルフォイですか…?」
突然出てきた名前にハーマイオニーは顔を曇らせる。なぜここでドラコの名前が出るのだろう。不審がるハーマイオニーに慌ててドラコとは幼馴染なのだと明かす。
「ほら、ドラコって他の人のこと下に見てるっていうか、ちょっと偉そうな態度が目立つというか……幼馴染としては同学年の子とうまく人付き合いできてるのかしら〜って心配なところが多々あってね…。あ、もちろん本人には言わないから!絶対!」
「……絶対ですよ」
「もちろん!!」
「じゃあ……」
ぐっと拳を握って誓った私に、ハーマイオニーは一つ息を吸ってから語り出す。
「の言う通り、マルフォイっていっつも偉そうにしてるわよ。自分が純血だって鼻にかけて嫌みばかり言ってくるし、クラップとゴイルを引き連れて大きい顔してるし!虎の威を借りる狐って彼の事よね。と言っても、あの二人は到底虎には見えないけどね。薬草学の授業の時なんてスネイプ先生のお気に入りだからって好き勝手するし、しかもそれが許されるのが頭にくる!絶対に私の方が完璧な調合ができてるのに、いつも何かといちゃもんつけて減点されるのよ!?信じられないわ!それにマルフォイだけじゃなくてスリザリンの子達ってマグルだからって下に見てくるし、本当になんでスリザリンってああお高くとまってる子ばっかりなのかしら!!」
怒濤の勢いでドラコのことを話すハーマイオニー。話す内にイライラを思い出したのか、声に熱が入りヒートアップしていく。どうやらあやつは思った以上に不遜な態度を取りまくっているみたいだ。
「なんか……ごめんなさい」
思わず謝ると、ハーマイオニーがはっと口を止めた。
「あっ、やだ!私、あなたに謝ってほしいわけじゃなくて」
「うん、分かってるわ。ただ、私の想像以上にドラコの態度がひどくて、思わずね」
苦笑いを零すとハーマイオニーの気持ちも落ち着いたみたいで、彼女との間に沈黙が流れる。
「……あの、聞いていい?」
「なに?」
先に口を開いたのはハーマイオニーだった。質問を促すと、数回視線を泳がせた後、まっすぐに私を見る。
「なんでは私と普通に話してくれるの?」
「だって私、ハーマイオニーと友だちになりたいんだもの」
普通。その単語が意味するのは寮の違いとか生まれの違いとかそういうことなんだろう。それを理解しながらまっすぐにハーマイオニーに言葉を返すと、彼女の目が丸くなった。
「私の母が寮や出自を気にしない人なんだけど、学生時代にとっても仲の良いグリフィンドールの友人がいたんだって。その人とは今でもとっても仲が良くて、それがすごく良いなぁって思ってるの」
母からのプレゼントを受け取った時のモリーさんの嬉しそうな顔を思い出して、自然と口元が綻ぶ。
純血や貴族が尊ばれもてはやされる世界にいながら、母はあんなに素敵な人と巡り会った。それがとても羨ましかった。
「それで、えーと、私はそれがハーマイオニーやハリーやロンだったら嬉しいなって思ってて」
言いながらだんだんと気恥ずかしくなってきて最後の方は小声になってしまった。
それほど仲の良くない相手から急にこんなこと言われて引いてないかしら。少し不安を抱きながらハーマイオニーの反応を待っていると、彼女の頬が赤くなっているのに気づいた。
「私、そんなこと言ってもらえたの初めてだわ。すごく…すっごく嬉しい」
「ほんとに?」
「ええっ!私も、と仲良くなりたいわ」
にっこりと笑ったハーマイオニーに、胸の奥がきゅんっと高鳴る。ああ、ほんとうになんでこの子達はこんなに純粋で可愛いのかしら!!
押し寄せる可愛さの波を噛みしめていると、違う方向で胸に刺さる一言が飛んできた。
「寮も生まれも関係なく仲良くなる……のその考え、すごく素敵だわ。きっとには友達がたくさんいるのね!」
「……え」
瞬間、フリーズしてしまった私を見てハーマイオニーが不思議そうに首を傾げる。
そりゃあそうだ。寮も生まれも関係なく仲良くなる。そんな大層なことを宣っているのだから、当然友人も多いはず。
だけど、実際には。
「友達は、レイラとハリーとロンとハーマイオニー、それからパーシー…かしら」
歯切れ悪く、だけど正直に答えた私に、不思議そうな表情がますます深まる。
そりゃあ、入学当初は私も頑張ってた。先入観なく色んな人と仲良くなろうと思ってた。だけど、スリザリン生と話せばお家自慢か他寮批判ばかり、他寮生と話そうと思えば逃げられるかあからさまに敵意を向けられる────そんなことが積もり積もって、気がつけば友達なんていなくても良いと思ってしまっていた。
ただ、そんな中でも仲良くなりたい人と出会った。
レイラにパーシー、そしてハリー、ロン、ハーマイオニー。少しずつ増えていく大切な人たちの顔を思い浮かべて、ぎこちなかった表情が和らいでいく。
(それから、いつかはジョージと友達になれたらいいな、なんて)
クリスマス以来授業で顔は見れど、一度も話していないジョージのことを思い出して、ちょっと感傷的な気持ちになりかけた時。
「ひどいな。僕は友達じゃないのかい」
「!??」
突然後ろからかけられた声に驚き、すごい勢いで振り向く。
「セ、セドリック」
いつの間にそこにいたのか、これまた久しぶりに会うセドリックがベンチのすぐ後ろに立っていた。
「、ごめんね。立ち聞きするつもりはなかったんだけど、気になる話題だったし僕の名前が出なかったから思わず口を挟んじゃった」
よほど私がびっくりした顔をしていたんだろう。セドリックは申し訳なさそうにそう話してきた。(うっ、その顔ずるい。)ガールズトークを邪魔するなって言おうと思ったのに、言えないじゃない。
隣から息を呑む音が聞こえてきて、そっと詰めていた息を吐き出す。
セドリック本人に悪気はなかったみたいだし、ここで怒っても大人げない。そう思いながら、彼の疑問に答えるべく口を開く。
「セドリックは、知り合いかしら」
「え」
ハンサムな顔が驚いた表情をしたのを見て、したり顔で笑ってみせた。
ガールズトークを邪魔した罪はそこそこ重いのよ。
第一回ガールズトーク