Do blessings rain down?

クリスマスのご馳走は素晴らしい以外の言葉が見つからないくらい最高だった。
こんがり焼けた七面鳥に、ちょうど良い甘さのカスタードプティング。他の料理も、どれも思わず頬がほころぶくらいとっても美味しい。大皿に手を伸ばすのがなかなか止められない。
(うちの屋敷しもべの料理だっていつも美味しいけど、城の屋敷しもべ達の腕前も大したものだわ)
ゆっくりと舌鼓を打っていたら、突然轟音が大広間の反対側で起こった。本日何度目かのそれに溜息を零す。
「またクラッカー……飽きないわねぇ……」
大盛り上がりをしているグリフィンドールのテーブルを見る。本日数回目のそれは、あそこにいる誰かが魔法のクラッカーを爆発させた音だ。テーブルの上は、二十日鼠やらオモチャの兵隊やらでごちゃごちゃしている。人数は少ないのに、みんなで集まってとても賑やかだった。


対してスリザリンのテーブルはといえば、とても静かなものだ。
「そもそも数がいないのよね…」
横目で離れたところに座っている生徒達を見る。片手で足りるんじゃないかしら。
加えて残っている生徒は単独行動を好む人ばかり。それぞれが好きな物を食べて、好きに時間を過ごしている。
「まあ、私もなんだけどね」
呟いて、デザートのカップケーキに齧りつく。
「ん〜!おいしい!」
これはもう一つ食べなくちゃ。





「は〜、お腹いっぱーい」
ベッドに横になって、ぽんぽんとお腹を叩く。結局あの後、他のデザートにも手を出してしまった。どれもこれも美味しすぎるからいけない。
美味しい料理と賑やかな生徒達。私的にはとても満足する時間だった。
唯一惜しまれるのは、この楽しい気持ちを共有できる唯一の友人がいないことだろうか。
(レイアはパーティーの支度をしているのかな。)
豪華絢爛なパーティールーム、彩り豊かなご馳走の数々、頭のてっぺんから爪の先まで飾られた人々。完璧な笑顔の下に、綺麗な言葉の裏に隠した嘘と駆け引き。
そんな様子を想像するのは簡単で、同時に思い出した憐れみと好奇の目に腹の奥から気持ちの悪い感情が湧いてくる。



────私だって、なんでこんなことになったのか分からないのに。
────どうして、私が!!



「あーーっ、なしなし!」
たちまち噴出しそうになったマイナスの感情を頭を何度も振って追い出す。こんな幸せな日にわざわざ落ち込むことを思い出すなんて馬鹿みたいだ。

「よしっ、出かけよう!」
心機一転、大きく声に出してベッドから立ち上がる。
折角の楽しいクリスマスなのに部屋にじっとしているのはもったいない!気分転換も兼ねて、城内探索でもしようか。思い立ったが吉日。早足に寝室のドアへと向かい、
「……そうだ!」
思い浮かんだ我ながら魅力的な提案に、にこりと笑いながら踵を返した。





「こんにちは、ミス・。散歩ですか?」
「ええ、そうよ」
特に目的地はなく、城内を散策していたら"首なしニック"と会った。グリフィンドール付きのゴーストである彼だけど、存外スリザリンの私にも友好的に接してくれる。
ふわふわと宙を漂っていたニックが、ふと青白い顔を明るくした。
「おや!素敵なセーターですね。あなたによくお似合いだ」
率直な褒め言葉に少しばかり照れ臭さを感じながらも、胸を張ってくるりとその場で一回転。ダークグリーンのセーターが、蝋燭の灯りを浴びて暖かく光る。
「そうでしょ?」
モリーさん手製のセーターを褒めてもらえて、なんだかすごく誇らしい気持ちになった。


「それでは、ミス・。楽しいクリスマスを」
「ありがとう、ニック。あなたもね」
いくつか他愛のない話をして、廊下の向こうへと飛んでいくニックを見送る。
さてこれからどうしようか。さすがに今日は図書館に行く気にはならないし厨房は夕食の用意で忙しいだろうし、かといって他に行き先も思いつかないし。それなら思い切って外に行ってみようか。……いやいや、このまま外に行くのはいくらなんでも寒いか。
行き先を決めあぐねていたら、靴音が一つ聞こえてきた。まっすぐに近づいてくる音。







名前を呼ぶ声にごくっと唾を飲み込む。顔を見なくても、後ろに誰が立っているかなんて分かっていた。


祝福は降り注ぐか