「ハリーからだ……」
クリスマスの朝。プレゼントの山の中からハリーからのカードを発見して、思わず二度見して確認してしまった。
「ハリーからだ!」
もし届いたら嬉しいなぁとすこーーーーし期待していたハリーからのプレゼントに、体の奥から喜びがわき上がってくる。
(どうしよう……とっても嬉しい!)
いそいそと包み紙を開けると、包みの中には色んなお菓子が入っていた。ファッジにティーケーキに、ショートブレッド。レモンキャンディーの小瓶に、それから百味ビーンズ。なぜか蛙チョコレート一つと小さな紅茶缶は、水色のリボンで結んだ透明なラッピングに分けて入っていた。
どれもいつだって家にあって飽きるほど食べたお菓子なのに、まるで宝石のようにとても魅力的な物に思えた。
きっとこのお菓子たちも紅茶も、今まで口にしたそのどれよりもずっとずっと美味しいだろう。
食べる時のことを考えて幸福感に満たされながら、ふとハリーはクリスマスの朝をどんな風に過ごしているのだろうと思った。
「羽根ペン、喜んでくれるといいなぁ」
もちろんハリーにプレゼントは送ってある。むしろレイアの次に時間をかけて選んだほどだ。それから、可愛い友人のロンとハーマイオニーにも。送ったのは三人で揃いの羽根ペン。まだまだホグワーツに長く在学する彼らに贈るのにピッタリだと思ったのだ。(二人にも無事に届いてるといいのだけど。)思いながら、お菓子と紅茶を大事にサイドテーブル上にある籠に仕舞った。
「あれ、まだある」
一番最後に残ったプレゼントは大きな包み袋だった。毎年送ってくれる友人や知人からのプレゼントは全部開けたのだけど。一体これは誰からだろう。思い当たる相手がいなくて暫く迷い、とりあえず開けてみようと包みを慎重に開く。
中から出てきたのはダークグリーンのセーターだった。多分手編みだ。
手作りの物を送られるなんて初めてで、ますます誰か分からず首を傾げていたらセーターの下にカードがあるのに気づいた。
『メリークリスマス
夏休みはあなたに会えて嬉しかったわ
あなたに似合うと良いのだけど
モリー・ウィーズリー』
「モリーさん!?」
まさかモリーさんから届くなんて思ってなくて心底驚く。
「大変、すぐにお返しを送らないと」
何が良いかしら。ああ、母様に聞いてみようか。
考えながらセーターを手に取ってみる。しっかり編まれたセーターはとても暖かそうだ。手作りとは思えない出来に、もしかすると毎年子どもたち宛てに編んでいるのかもしれないと思った。
今頃、あの小さいけれど温かな家は賑やかな笑い声と笑顔でいっぱいなんだろう。
ウィーズリー家の様子を想像したら、なんだかとても微笑ましい気持ちになった。
朝食を食べようと大広間へ向かっていたら、楽しそうに話しながら階段を降りてくるハリーとロンを見つけた。
まさか二人が残っているなんて。吃驚して、すぐさま二人の名前を呼ぶ。
「ハリー!?ロン!?」
二人がぱっと顔をこちらに向ける。ハリーが嬉しそうに笑った。
「!」
周りに生徒はいなかったから、ハリーは笑顔で名前を呼び返してくれた。
嬉しさと可愛さに胸を鷲掴みにされながら、二人が降りてくるのを待つ。
「メリークリスマス!二人とも残ってたのね」
「メリークリスマス、。君がいるなんて驚いたよ」
ハリーと言葉を交わしたのはほとんど同時で、顔を見合わせてそれから声を出して笑い合う。ひとしきり笑ってから、深呼吸を一つ。
「プレゼントありがとう。本当に、とってもとっても嬉しかったわ」
ハリーからのプレゼントを見つけた時の喜び、プレゼントを開ける時のドキドキ、それから胸いっぱいの幸福感。全部伝わったらいいな。
「どういたしまして。僕の方こそ素敵なプレゼントありがとう。大切に使うね」
笑顔でそう言ったハリーに、心の中で安堵の息をつく。良かった、喜んでもらえたみたい。
「ほら、ロン」ハリーがロンの肘を小突く。すると、それまで視線をそっぽに向けていたロンがチラッと私を見て、「……ありがと」小さな声で言うなり、また視線を逸らしてしまった。
ハリーは呆れたような目でロンを見たけど、私にはそれで十分だった。
「どういたしまして」
笑いながら言葉を返せば、ロンは何故だか居心地悪そうな表情になった。
「……ハリー。僕、先に行くね」
そう言うなり、ロンは足早にいなくなってしまった。あまりにもすぐに去ってしまったものだから呼び止めることもできなかった。
「ロンったら、急にどうしたのかしら。気分でも悪かった?」
「ううん。きっと恥ずかしいんだよ」
「え?」
少しばかり笑いを含んだ声に首を傾げる。恥ずかしい?何が?見当がつかず、ハリーに説明を求める。ハリーは少しだけ言うかどうか迷った素ぶりを見せたけど、まあいっか、と口を開いた。
「実は僕からのプレゼントの中に、ロンとハーマイオニーからのが一つずつ入ってたんだよ」
「そうなの?!」
「ロンが自分一人で送るのは嫌だって。だから、僕のに入れたんだ」
面倒な友人でごめんね。苦笑交じりにそう言ったハリーに、ぶんぶんと首を横に振る。
「全然面倒なんかじゃない!嬉しい!」
それからすぐに後悔する。ああ、なんで朝の時点で少しくらい気づかなかったのかしら。お礼を言いそびれてしまった。────ううん、まだ間に合う!
「さ、。そろそろ僕らも大広間に──」
「ハリー、行きましょう!」
「?!」
ゆっくり歩き出そうとしたハリーの腕をぐっと掴み、ロンを追って走り出す。
「ロンを捕まえなくっちゃ!」
振り返って見つめた先、眼鏡の奥でエメラルドの瞳が丸くなって、それから可笑しそうに細められた。
もしかしたら、今この瞬間が今年の幸せのピークなのかもしれない。
人のいない廊下をハリーと二人で駆け抜けながら、ふとそんなことを思った。
これから先は悪いことばかり起こるかも。今みたいな温かくて嬉しくて楽しい気持ち、感じることがないかもしれない。
(それでも良い。だって、今!とっても幸せだもの!!)
角を曲がって、とてもゆっくりと廊下を歩く、ロンの丸まった背中を見つけた。
さて、なんてお礼を言おうか。湧き上がってきたわくわくとした高揚感に、無意識に口元が笑みを浮かべる。
(悪戯を仕掛ける時の気持ちって、こんな気持ちなのかしら。)
ハリーの手を放して、ひときわ力を込めて床を蹴る。
足音に気づいたロンが振り返って、水色の目を見開いて。
その目には、とても嬉しそうに笑う私が映っていた。
世界一幸せなクリスマスの朝