夕食を終えて談話室に戻ると、暖炉の前に賑やかな集団ができていた。少し気になって通り際に耳を傾けてみると、パーティーやプレゼントといった単語を聞き取ることができた。
(ああ、もうすぐクリスマスか。)
よくよく賑わいの中心を見てみれば、上級生に混じってソファに陣取ったドラコがとても自慢げに話しているのを見つけた。あの子の家は盛大なパーティーが催されるんだろうな。
いつだったか一度招待されたけれど、その時の豪華絢爛さといったら。(若干悪趣味な感じも否めなかったけど。)幼な心に上流階級は違うわと思ったものだ。
そういえば、まだクリスマスプレゼントを選んでなかった。明日にでもふくろう便でカタログを取り寄せようかな。
(レイラに母様達に、ドラコに…。あ、ハリーにも送りたいな。ロンとハーマイオニーにも。それから…、)
誰に送ろうか考えながら談話室を横切り、女子寮へ入ろうとした時、「」突然腕を掴まれてビクッと体が震えた。慌てて振り返ると、不機嫌そうな顔のドラコがすぐ近くにいた。
「なに、ドラコ。ビックリしたじゃない」
「何度も呼んだのに無視したのはの方だろう」
「え、呼んでた?ごめんなさい、全然気づかなかった」
完全に上の空だった。素直に謝れば、ドラコは呆れた様子ではあっと一度息を吐いた。よし、許してもらえたみたい。
「それで、何の用?」
なんとなく予想はつくけれど。きっとクリスマスの話だろう。
「今、クリスマスの話をしてたんだけどはどこか行くのか?」
ほら来た。そして恐らく次に続くのは、パーティーへのお誘い。
「予定がないなら、我が家のパーティーに招待したいんだが」
予想通りにどうもありがとう。予定はどうかと聞きながら、ドラコは私がOKするに決まってるって顔をしている。でも残念ながら、答えはNOだ。
しかしそれをどう伝えようか。賑わう集団は自分達の話に花を咲かせているけれど、その実こっちの会話に耳をそばだてているのがバレバレだ。うーん、どうやってこのお坊ちゃまの機嫌を損ねず、かつ恥をかかせないように断ろう。穏便に場をやり過ごす打開策を頭をフル回転させて模索する。
「あら、だめよ。はもう予約済みだもの」
不意に顔の後ろから手が伸びて来て、そのまま抱きしめられる。顔だけ振り向くと整った顔で艶やかに笑うレイラがいた。
予約済みとはどういう意味だろう。目で問いかけると、レイラはことさら笑みを深くする。
「今年のクリスマスはうちで女子会するの。ね、」
なにそれ聞いてない。思わず口走りそうになって、助けてくれているのだと気づいた。このまま助け舟に乗せてもらおう。
「あー、そうだった。ドラコ、せっかく誘ってくれたのにごめんね」
「…いや、それなら仕方ない」
断られると思っていなかったのだろう。ドラコは微妙な顔だったけど、素直に引き下がった。ソファに戻る後ろ姿が結構気落ちしているように見えて、心の中でもう一度ごめんなさいと謝った。
「レイラ、助けてくれてありがとう」
「どういたしまして」
部屋に戻ってレイラにお礼を告げると、随分と素っ気なく返された。なんだろ、機嫌が悪い?着替える手を止めてレイラの所に行くと、レイラは不貞腐れた顔をしていた。なんで?訳が分からず見ていると、レイラは小さく溜息を吐く。
「今年も残るつもり?」
「え、うん。そうだけど」
ボソッと吐き出された言葉に、考える間も無く答える。途端、レイラの額に深い皺が刻まれる。
「レイラ?」
「ごめん。ちょっと出てくる」
目を合わさずにレイラが部屋から出て行った。その背中がドアの向こうに消えても、私には彼女がなんであんな顔をしたのか分からなかった。
「さっきはごめん。ちょっと彼氏と喧嘩してイライラしてた。はいこれ、お詫び」
就寝時間ギリギリに部屋に戻ってきたレイラは、部屋に入るなりそう言ってナプキンに包まれたクッキーを差し出してきた。(厨房からもらってきたのだろう)
いつもと変わらない様子のレイラに拍子抜けして、さっきのことを聞く気も無くなってしまった。
「そっか」
小さく笑って、もらったクッキーを一つ口に放り込む。
そうして、聞かずに済んだ安堵感を甘いクッキーと一緒に噛み砕いて、飲み込んだ。
ハッピーロンリークリスマス