「あっ」
朝食を食べ終え大広間を出たところで、少し先を赤毛の二人組が歩いているのを見つけた。ジョージとフレッドだ。
昨日のことを思い出して、足が止まりそうになる。ここで会うのはちょっと……いやかなり気まずい。
「!」
気配を殺して離れようと決めた時、後ろからセドリックの声がした。
後ろを振り返ると、大広間から出てくるセドリックを見つけた。
「会えて良かった!君に渡したい物があったんだ!昨日これを」
「ちょちょちょっと待って、セドリック!えーーっと。あっ、あっち!」
セドリックは私の前まで小走りにやってきて、白い歯を見せてにこりと笑う。
そしてそのまま話し始めたものだから慌てて遮る。服の裾をつまんで廊下の柱の陰まで引っ張っていく。通行の邪魔だったし、なにより通り過ぎる子達から好奇の目で見られるのが耐えられなかった。
「よし、ここならいいかな。……それで、渡したい物ってなに?」
「うん。昨日、廊下でこれを拾ったんだけど、君のじゃないかなと思って」
そう言ってセドリックがポケットから取り出したのは、ネックレスだった。シルバーのチェーンに、白い花のモチーフ。間違いなく私のだ。
驚いて目を丸くした。まさかセドリックが拾っていたなんて。
「あれ、違ったかな?」
「ううん、私の!でもなんで?」
「この前一緒に外に行った時、君がつけているのを覚えていたから」
あの時のことを覚えていたのか。すごいなぁ。ハンサムは顔や性格だけじゃないらしい。
お礼を言ってネックレスを受け取る。掌に乗ったネックレスを見てとても安心した。戻ってきて良かった。
再び無くしたら昨日のようなハプニングにまた遭遇してしまいそうな予感がした。ネックレスをつけようとしたけれど、なかなか金具が引っかからずに留めることができない。
「。僕がしようか?」
「うん……よろしく」
見かねたセドリックの申し出を素直に受け、ネックレスをセドリックに渡して背中を向ける。大きくて骨張った手が視界に入って心臓が変な感じに跳ねた。やだ、なんかすごく恥ずかしい。早くつけてくれないかな。
やってもらう立場でわがままだとは思ったけど、頬がにわかに熱を帯び始めたのを感じて強く念じた。
「っ!」
そんな時にセドリックの指が首の後ろを掠ったものだから、思わずびくっと体が震えた。
ああ、ほんとに早くしてちょうだい!
「……はい。できたよ」
セドリックに声をかけられるまで、随分と長く感じた。きっと本当はすぐだったのだろうけど。
鎖骨の下に収まったモチーフに指先で触れて大きく息を吸う。大丈夫、落ち着いて。
「セドリック、ありがとう」
「どういたしまして」
最後までセドリックの笑顔はハンサムで、どこまでも紳士的で。
変にドキドキしてしまったことを申し訳なく感じて、目を合わせることはできなかった。
気まずいドキドキ