たまには心に従ってみる

トロールが地下室に入ってきた。
クィレルの言葉に、大広間を包んでいたハロウィーンの賑やかな空気は一瞬にして動揺と混乱に変わった。

誰もが恐怖で冷静さを失う中、大音量の爆竹が鳴り響く。
「監督生よ。すぐさま寮生を引率して寮に帰るように」
ダンブルドアの重々しい声に、各寮が監督生を先頭に移動を始めた。
流れに乗ってグリフィンドールの一団に混ざった時、スリザリンの女子が先生達の所へ走って行くのに気がついた。確かあの子は、とよく一緒にいる奴だ。彼女の青ざめた顔を見て、無意識の内に足を止めていた。――なぜだか、胸がざわつく。
「ジョージ?」誰かに名前を呼ばれたけど、それを無視して一団から抜け出した。

「ーーが!がいないんです!」
先生達の前で必死に話す彼女の言葉に、心臓が止まりそうな感覚になったのは、どうしてなのか。
「あの子、薬草学の帰りに落とし物をしたって!それで一人で探しに行ってて、トロールのこと知らないんです!」
切羽詰まった様子の彼女に、先生達の表情が険しくなる。(が)どくどく、心臓の音が早くなる。その理由は分からない。が、あいつがどうなったって、僕には関係ないというのに。

「おい、ジョージ!」
突然肩を掴まれて後ろを向くと、フレッドがいた。「どうしたんだよ?」不審そうな顔の相棒に答えようとしたけど、言葉は出てこない。
「ウィーズリー!早く寮にお戻りなさい!」僕達に気がついたマクゴナガルの厳しい声に慌ててグリフィンドールの流れに戻る。去り際に一度だけ振り返ると、スリザリンの彼女と目が合う。涙を浮かんだ目にどくんと心臓が鼓動したけど、やっぱりその理由はーーわからない。

廊下は色々な寮やグループで溢れていた。
「グリフィンドールはついてきて!一年生は固まって!」
遠くからパーシーの声が聞こえてくる。グリフィンドール一団の最後尾に合流したけど、みんな逃げるのに必死でーーきっと今なら誰にも気づかれないで抜けられる。
「……フレッド、秘密の地図出して」
「は?もしかしてを見つけるつもりか?なんで?」
耳敏い相棒はさっきの話を聞いていたらしい。眉をひそめたフレッドに言葉が詰まる。
なんでなんて、自分でも分からないけど。

いつかの、階段から落ちるの姿が、脳裏にフラッシュバックした。
きっとあいつは、巻き込まれる気がする。

「僕の方が先生達より早くを見つけられるだろ。話を聞いちゃったし、もし彼女が死んだりしたら寝覚めが悪いし」
僕の言葉にフレッドは不機嫌な表情をしたけど、大きく息を吐き出した後ローブのポケットから羊皮紙を取り出すとこちらに投げてきた。
「なんでそんなにのこと気にかけるのか、不思議でたまらないな」
心底理解できない。そう言ってくるフレッドに、
「僕だって、全然分からないよ」
まじめに同意すれば、なんだそれと呆れられたのだった。