Cunning person

ハリー・ポッタが飛行訓練の授業で先生の言いつけを破り、退学処分になるらしい。

ドラコが得意げな話し声に耳を疑った。一度言いつけを破ったくらいで退学処分なんて、いくらなんでも厳しすぎる。きっとドラコの嘘だろう。


「……いた」
そう思ったけど、気づけば大広間に向かってしまっていた。
大広間の入り口からハリーを探し、グリフィンドールのテーブルにロンと一緒に座っているのを見つけた。
本人から話を聞きたい。けれど大広間にはすでに多くの生徒がいてなんとか気持ちを抑えた。さすがにこんなに人目があるところで話しかけたくはない。
どうしようか迷っていたら、
「まさか!」
ロンの叫び声が聞こえてきた。

まさか本当に退学処分?じわりと汗が浮かんできた手でスカートを握りしめて、じっとハリーの様子を伺う。
「……あれ?」
死んだような顔をしていると思ったのに、ハリーはパイをかき込むように食べていた。ずいぶんと元気そうなハリーに、頭の中ではてなが浮かぶ。さっき叫んだロンを見れば目を丸くしていたけど、ハリーと話す間に興奮で頬を赤くしていっていた。

一体どういう状況なんだろう。もういっそ堂々と近づいて聞いてしまおうかと考えたその時、双子がハリー達の席に現れた。
明るく話す様子に心配していたような悪い結果ではないと感じて、ほっと息を吐く。
安心したらお腹が空腹を知らせてきた。スリザリンのテーブルに行こうと思った時、フレッドとジョージはこちらへと向かってきた。

────よし。

「なあジョージ。あっちの隠し通路から行って、リーのこと驚かせてやろう」
「ウィーズリー!」
「うおっ!?」
通り過ぎようとしたウィーズリーの片方の服を横から引っ張る。
ウィーズリーは急に引っ張られて驚いた声を上げた。そして私に気づくと顔をしかめて、掴まれていた服を強引に引き剥がす。
「……
「スリザリンが何の用だ」
苛立ち混じりの低い声にビクリと体が震えた。なんだか今日はいつにも増して当たりがキツい気がする。けれどこんなことで怯んではいられない。気合いを入れて、ぐっと顔を上げる。

「ハリー、退学なんてしないわよね?」
「はあ?」
私の言葉に何言ってんだコイツみたいな顔で私を見てきた。退学の噂を知らなかったみたいだ。もう一人の片割れに目を向けても、似たような表情をしている。
「意味わかんないけど。ハリーが退学なんてするわけないだろ」
しかめ面で返ってきた言葉に、気持ちがぱっと明るくなった。
そっか、そうか。やっぱりデマだった。希望が確信に変わった。

「良かったぁー」
安堵から笑ってしまった私に、双子は顔を見合わせて肩をすくめた。
「変なやつ」







「ドラコ、ずいぶん機嫌がいいのね」
談話室の一番大きなソファにどっかりと座っているドラコはとても上機嫌だ。そんなにハリーが退学するのが嬉しいのかしら。退学しないことを知らせてやろうかと思ったけど、私も詳しいことは知らないから黙っておくことにした。
声をかけられて、ドラコはニヤニヤと悪い笑顔を浮かべる。

「今夜、ポッターと決闘をすることになったんだ」
「ええっ?決闘なんて、魔法もろくに使えない1年ができるわけないじゃない。殴り合いでもするつもり?」
飛行訓練の次は決闘って……。同じ日に何度も衝突するなんて、本当にドラコとハリーは気が合わないみたい。
決闘の様子を想像してみる。ハリーもドラコも細い体をしているし、力もあまりなさそう。へにゃへにゃなパンチでぺちぺちと殴り合うところを想像したら、なんだか可哀想な気持ちになった。
自分を見る目に哀れみを感じ取ったのだろう、ドラコは青白い頬を少し赤くして「失礼だな!攻撃魔法くらい使えるさ!」と大きな声を出した。ほんとかなぁ……。

「それで、今夜って何時?そろそろ日付変わるけど」
「0時だよ」
ドラコの言葉に、ん?と首を傾げる。
それを見てほくそ笑むドラコ。……ああ、なるほど。それでそんなに上機嫌なのか。
「ポッターをはめたわけね」
「ああ。決闘なんて、そんな馬鹿馬鹿しいものに僕が行くわけないだろ」
罪悪感なんて微塵もないのだろう。ドラコは平然と言ってのけた。
「それじゃあ、ポッターは待ちぼうけね」
「いいや。フィルチに密告したんだ。今夜、トロフィー室に生徒が侵入するってね」
「うわぁ……」
なんてずる賢いんだろう。他人を陥れるために手を抜かない幼馴染みに、頭痛とほんの僅かに尊敬の念を抱いた。

まさに狡猾──スリザリンに相応しい性格だ。(そして、決闘に挑んだハリーの勇敢さは、まさにグリフィンドールのものだ。)

「ずっるいなぁ……」
「褒め言葉と受け取っておくよ」



一難去って、また一難。
明日の朝、ハリーはどんな顔をしているだろうか。


ずるい人