「ロン、ハリー!いいか、スリザリンは狡猾でずる賢い連中なんだ。少し優しくされたからって気を許しちゃいけないからな!」
「そんなことしたらいつ足元を掬われるか、寝首をかっ切られるか分かったもんじゃないぞ」
夕食後の談話室でフレッドと2人、拳を握りながら熱弁すれば、ロンとハリーは宿題の手を止めて僕達を見上げた。急に何を言っているんだろう、そんな顔にもう一度念押しをしようと口を開いて、
「もしかして、のことを言ってるの?」
それより先にハリーの口から出てきた名前に、反射的に眉間にシワが寄った。それを見たハリーが羽根ペンを羊皮紙の横に置いてから僕達に向き合う。
「僕には彼女が狡猾ともずる賢いとも思えないんだけど。今日もすぐに道案内してくれたし」
「どうだか。本心では英雄の君に一発お見舞いしてやろうって思ってるに決まってるさ」
「そうかなぁ?」
「そうだって。ハリーはあいつがどんなに嫌な奴か知らないだろ。君を油断させようと本性を隠してるのさ」
フレッドと僕の言葉にハリーは考える素振りを見せた。よし、ハリーがあの女に騙される前に阻止できたぞ。心の中でガッツポーズをした時、ハリーがじっと僕の目を見た。
「そうかもね。……それなら僕、もっとと話してみるよ」
「は?おいハリー、なんでそうなるんだ」
「だってそうしないと、彼女が本当に嫌な人なのか分からないでしょ。もしかしたら良い人かもしれないじゃないか」
そう話すハリーの目は真っ直ぐで。が良い人?そんなわけあるはずない。――――のに、なぜか言葉に詰まって何も言い返せなかった。
隣からの空気が段々と不機嫌なものになる。それを感じ取ったんだろう、ロンは気がまづそうに視線を逸らす。
「2人とも心配してくれてありがとう。だけど僕、マルフォイにも言ったんだ。友達は自分で決めるって」
告げる言葉とエメラルドの瞳は揺らぎない意思を伝えてきて、これはもう何を言っても無駄だと悟る。
「後で痛い目に合っても知らないからな」
ため息とともに吐き出した言葉は、負け犬の捨て台詞みたいだった。