Destination of the handkerchief

楽しいイースター休暇も終わって、気がつけばもうすぐ期末試験。ここ最近は、時間があれば図書館に通って勉強の毎日である。
「よしっ。今日はこれでお終い」
きりの良いところまで書き終え、んーっと伸びをして凝った体をほぐす。本を閉じて元の場所に戻すため荷物を持って本棚に向かう。
その途中のテーブルで意外な人物を見かけた。真っ赤な髪の毛、ウィーズリーだ。
いつもは賑やかな彼の周りが静かなのは、ここがマダム・ピンスが支配する図書館の中だからなのと、彼が唸りながら大量の羊皮紙に向かっているからだろう。
イライラしてるなぁ。話しかけたら噛みついてきそう。
触らぬ神に祟りなし。雉も鳴かずば打たれまい。そっと後ろを通り抜けようとして、でも好奇心からちらっと彼を悩ませている羊皮紙を盗み見た。
魔法薬学に変身術、それと闇の魔術に対する防衛術。ずいぶんたくさんの課題を広げているものだ。
きっと悪戯に明け暮れて、ぎりぎりまで溜めていたのだろう。ご愁傷様。
通り過ぎ、目的の本棚に本を片付ける。さてと、この後はどう過ごそうか。
考えながら、所々インクで塗りつぶされた文字を思い出してぶんぶんと頭を振る。けれど、すぐにまた浮かんできた。……確か、変身術は明日が提出期限だったはず。

「この本、役に立つわよ」
ウィーズリーが怒られようが、グリフィンドールが減点されようが私には関係ないのに。気になって、声をかけられずにはいられなかった。
ぱっと顔を上げたウィーズリーが、私を見ると途端に顔をしかめた。
やっぱり声をかけなければ良かった。
、何の用だよ」
「その態度、本当に失礼ね。せっかく使えそうな本を貸してあげようと思ったのに」
このまま帰ろうかと思ったけれど自分で本を片付けるのも嫌で、どさっとウィーズリーの前に数冊の本を落とした。
そしてウィーズリーが目を瞬かせている間に、羊皮紙にさっと目を通す。
「それから、これはここの魔法を引用するでしょ。で、この実験はこの式が間違ってるから」
とんとんと指さしながら、詰まっている部分にヒントを与えていく。
訝しげに向けられた視線を無視して、勝手に話し続ける。

「ハンカチのお礼よ」
理由が知りたいのだろう。それが分かって、問われるより先に告げることにした。
「ハンカチ?」
なんのことだと首を傾げる。この野郎、本当に忘れているみたいだ。
……まあ、無理もないか。あの出来事はもう10ヶ月近く前のことなのだから。
まだ何のことか分かっていないウィーズリーに、鞄の中からハンカチを取り出して渡す。なかなか受け取らないから押しつけた。
手にしてからようやく思い出したみたいで、「あっ」と小さく声を出す。
「捨てていいって言われたけど、失礼だと思ったから返すわ」
頭の中にニカッと笑ったジョージ・ウィーズリーの笑顔が浮かんだ。あの笑顔も、結局あの時限りだ。
「そろそろパーシーに託そうかと思っていたんだけど、直接渡せて良かった」
パーシーの名前を口にしたら、ウィーズリーの眉が少し寄った。本当にここの兄弟は仲が悪い。
「貸してくれてありがとう。長らく借りっぱなしでごめんなさい」
「いいよ、元々そんなにハンカチ使ってなかったし……」
「って、フレッド・ウィーズリーに言っておいてね」
「え?」
ジョージ・ウィーズリーが、青い瞳を丸くした。

「なんで僕がジョージだって分かったんだい?」
不思議そうな相手に、そういえばなんでそう思ったんだろうと自分でも首を傾げる。
「ん〜、勘?あなたにはあまりイライラしないから……?」
「はあ?なんだ、それ?」
疑問符付きの答えを聞いた、ジョージ・ウィーズリーの微妙な表情といったら。
しょうがないじゃない。私だってなんであなたがジョージだと思ったのか分かっていないのだから。

「あなたもありがとう。あの時、怪我を心配してくれてとても嬉しかった」
いつかの階段での時とは違って恥ずかしくなることもなく、お礼の言葉が素直に言えた。
ずっと胸につかえていたしこりがようやく無くなって、とても清々しい気持ちになる。
「そりゃあ、どうも」
ぼそりと返してきたジョージ・ウィーズリーの頬がうっすらと赤く染まっている。
それを見て、可愛いところもあるじゃないのと思うくらいの余裕があった。
「じゃあ、ちゃんと返したからね」
見回りに来たマダム・ピンスの咎めるような視線に、テーブルを離れることにした。
大丈夫。顔の熱さは伝染していない。


ハンカチの行く先