Lie sinking to blue

ホグワーツのクリスマスは静かだ。
すっかり人気の少なくなった廊下を歩きながら、気持ちの良い静けさに思わず鼻歌を歌い出してしまう。

「ミス・。ずいぶんとご機嫌じゃのう。なにか良いプレゼントでももらったのかな?」
ほっほっと笑う声に固まった。ぎぎ…と音がしそうなほどぎこちなく顔を横に向ければ、中庭にダンブルドア校長が立っていた。白い髪と髭が、降り積もった雪と同化している。
なんてこと、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「お見苦しいところをお見せしました」ぷしゅ〜っと顔から湯気が出そうな感覚に、足早にその場を立ち去りたくなった。
「よいではないか。今日はクリスマスなんじゃからな」
半月型のメガネの奥の目が柔和に微笑む。こちらへと歩いてくるダンブルドア。長身のダンブルドアと目を合わせるのは一苦労で、ぐっと顔を上に向ける。一対一で話すのは初めてで(そもそも校長と話すこと自体滅多にないことなのだが)緊張で掌に汗が浮かんできた。
「君はご実家には帰らんで良かったのかな?」
「は、はい。帰ったらパーティーに出席しないといけないし……。まだそういう場に出るのは嫌だったので」
頬を掻きながら苦笑いを返すと、ダンブルドアはそうかと静かに微笑んだ。

「ところで、体の調子は良いかの?」
そして、そんな問いかけを投げてきた。
周りに人の気配はない。小さく口を開いて、閉じて、それからもう一度しっかりと開く。
「全然問題ないですよ。薬も毎日飲んでいるし、自分でもびっくりするぐらい元気です。……あ、この薬がかなりまずくてですね。この味には未だに慣れなくて」
「それは良かった。良薬口に苦しじゃよ」
話していて今朝も飲み込んだ薬の味が舌の上に蘇ってきた。よほど嫌な顔をしたのか、ダンブルドアは悪戯っぽく笑った。
「授業の方は全く問題ないと聞いておるよ。君は今年の分は勉強し終わっておったのだろう?物足りなくなかったかな?」
「全然!家じゃ理論しか学べなかったから、ホグワーツで実際に杖で魔法を使ったり調合したり、どの授業もとても楽しいです!」
食い気味に少し声を大きくして答えたら、ダンブルドアは瞳をますます細めてとても嬉しそうな顔になった。
拳まで握って話してしまい、慌てて両手を背中に隠した。

「留年は君たっての強い望みだったからの。充実しているようでわしも嬉しいわい」
「……その節は本当にご迷惑をおかけしました」
怒り狂う父親と、青ざめた顔で私と父親を見つめる母親。
我が家最大の大喧嘩を思い出し、ダンブルドアに深く頭を下げる。
あの時、校長先生が父親を宥めてくれなかったら、今頃どうなっていたか。
頭を上げなさい。優しい声にゆっくりと頭を上げる。

淡いブルーの目がきらりと光る。全てを見透かして、その上で全て受け止めてくれそうな――この目が、私はとても好きだった。
スリザリンの生徒は何かとこの人を嫌うけれど――。あの時以来、私はこの人を慕い、心底信頼していた。
「ミス・。また何かあったら、遠慮せずに話しておくれよ」
だからこそ、私は嘘を吐くことを選ぶ。
「はい」
笑顔と共に口にした言葉は、ひゅうっと吹いた冷たい風に流されていった。


青に沈む嘘