結果から言うと、例の一悶着から一ヶ月経っても双子から悪戯を受けることはなかった。
パーシーにも忠告されたから尚更気を張っていたのだけど、ハロウィーンの話がちらほら出始める頃には流石にもうゆるっゆるになってしまった。
「ウィーズリーも大したことなかったわね」
「いやいや、悪戯ならあったでしょ。がうまくやり過ごしただけで」
「そうだったっけ?」
クソ爆弾の雨が降ったり、鞄が勝手に飛んでいこうとしたり、廊下に突然大穴が空いたり。
そんなかわいいものは何度かあったけど(そしてその度魔法で防いだけど)、想像していたようなえげつない悪戯は今のところない。
思い当たる出来事がなくて頭を傾げたら、呆れた視線を送られてしまった。
「は双子から悪戯されたいわけ?」
「そんなわけないじゃない。私は平和に過ごしたいんだから」
魔法薬学に行くレイラと別れて、魔法史の教室へと向かうことにした。
念のため周囲に注意を払うけど、やはりというかウィーズリーの気配はなかった。
そういえばここ最近は、彼らに悪戯をされたという話を聞くことが減った気がする。なんでだろう。
不思議に思ったけれど、そっちの方がいいかとすぐに忘れて歩き出す。
今日も平和に過ごせそうだ。
「あ、ここって」
今日の授業を終えて、思い立っていつもと違う道で談話室へと向かっていたら、覚えのある教室の前にたどり着いた。
双子のウィーズリーと初遭遇した教室だった。
少し迷って、扉を開ける。
誰もいない部屋では、扉を閉める音がとても大きく聞こえた。
顔に当たる日差しに、ゆっくりと目を覚ます。
窓から差し込んだ日の色は、すっかり赤くなっていた。
「あー、寝ちゃってた……」
部屋の空気は冷えていて、思わずぶるっと体が震えた。
机に突っ伏していたから、顔や髪がおかしくなっていないか手鏡で確認する。うん、いつも通りかわいい。
このまま夕飯を食べに行こうと立ち上がる。
「ん?」
外から大きな声が聞こえてくることに気がついた。
なんだろうか。興味を引かれて窓を開けてみたら、さっきよりもはっきりと声が聞こえてきた。そしてそれがどこからしてくるのかも。
「そういえば、もうクィディッチシーズンだったわね」
少し遠くの競技場。そこでびゅんびゅんと空を飛び回るいくつもの人影。
夕日を浴びる人影は陽と同じ赤色。そういえば、第一戦はグリフィンドールとハッフルパフのカードだった気がする。
今年はどこが優勝するのかしら。頬杖をついてぼんやりと眺めているうちに、だんだんと日が落ちていった。
グリフィンドールの赤い選手達も、次々と闇色に染まっていく。
その中で、変わらず赤いままの選手が二人。
「……ウィーズリーだ」
色だけで判別できるとは、なんて便利な髪なのだろう。
彼の兄もすごい選手だけれど、弟も負けず劣らずということか。
自分はみじんも持ち得ていない才能が、羨ましいし少し悔しいとすら感じた。
あんな風に自由に空を飛べたら、とっても楽しいだろうな。
「……あ、なるほど。それで悪戯が減ったのか」
クィディッチの練習はとてもハードだと聞く。それにここ数年優勝トロフィーを手にしているのは、喜ばしいことに我がスリザリンだ。この事実に最も敵対心を燃やしているグリフィンドールのこと、きっと他の寮に比べても練習量は多いのだろう。
寮のベッドにヘトヘトで倒れ込む様子を想像したら、少しかわいそうに思った。本人達は望んでチームに入っているのだから、そう思われるのは心外だろうけど。
「……がんばれー」
最後の光が水平線の向こうに消えた時、一人がこっちを振り返ったような気がした。
宵闇に赤