たとえそれが苦手な相手の物であって、そしてその本人から捨てていいと言われていたとしても、はいそうですかと捨てることはできなかった。
……かといって、そう簡単に返せる状況でもないのだけど。
洗濯したウィーズリーのハンカチを視界の端に捉え、身支度をしながらう〜んと頭を悩ませる。
先日の呪文への仕返しは今のところないけれど、きっと一対一であったりしたら確実になにかされると思う。
そんな状況でわざわざ会おうと思うほど、私もチャレンジャーではなかったし彼らに恩を感じているわけでもなかった。
そんなわけで。何らかの偶然が重なりに重なって、和気藹々和やかな雰囲気で双子と会える日が来た時のために、鞄の中にハンカチをいつも入れておくことにした。
「じゃないか」
夕飯後の図書館。
名前を呼ばれて振り向くと、本棚の入り口に赤毛の男子生徒が立っていた。
反射的に警戒してしまった。けれど、その人がウィーズリーはウィーズリーでも、大嫌いなウィーズリーではなくて好きなウィーズリーだったことに気づいて緊張を解いた。その人はパーシー・ウィーズリーだった。
「パーシー!覚えててくれたんだ!」
「当たり前だろう」
すぐに駆け寄って、司書のマダム・ピンスを気にしながら小声で話せば、パーシーは自慢げに笑った。
その笑い方、変わらないなあ。
「君にまた会えるなんて。本当に嬉しいよ」
「うん、私も!また一緒に勉強しようよ!」
「もちろんだよ」
迷うことなく頷いてくれたのがとても嬉しくて、ここ数日で一番ハッピーな気持ちになった。
どうせならもう少し話をしようという誘いを快諾して、二人で図書館を後にする。
隣を歩くパーシーは顔つきが少し大人っぽくなって、背がぐんと伸びていたけれど、性格は1年前とあまり変わっていないように感じた。
パーシーが話すのは主に勉強と将来のことで、だんだんと熱が入るパーシーの話に時折相づちを打ちながら楽しく話を聞いた。
しばらくして話が一段落したところで、パーシーは「ところで」と少し不自然に話題を変えた。
「留年したんだってね」
「うん。弟に聞いた?」
「ああ。その件はうちの愚弟達がすまなかった。あいつらは本当に無神経で……」
「パーシーが謝らないでよ。それに、いつかは聞かれると思っていたし」
しかめっ面で弟の無礼を謝るパーシー。彼に免じて、弟のことは水に流すことにした。実はまだ少しだけ気にしていたのだ。
あっけらかんとした私の態度にパーシーはほっと息を吐いて、それからまた眉をひそめた。今日は彼にしては表情の変化が忙しい。
「……それと本当に君には申し訳ないんだけど、あいつら仕返しになにか悪戯を仕掛けるつもりらしい。十分気をつけてくれ」
「あー……やっぱり。うん。じゃあ、その時は倍でやり返すことにするわ」
拳を握りしめて、覚悟を決める。いつでもかかってきなさい!
それからまた取り留めのない話をしながら歩いて、気づいたらそれぞれの談話室にほど近いところまで来ていた。
お互いのためにも人に見られるのは避けた方がいい。わざわざ言わなくてもそのことは承知していたから、自然と距離が開いていく。
そしてそのまま別れようかと思ったけど、呼び止められて素直に立ち止まった。
パーシーはちょっとの間、言おうか言わまいか迷っていたけど、私が10数えるより先に口を開いた。
「もしが、僕が話すに値する人間だと思ってくれるんだったらに、いつか理由を教えてほしい」
やや緊張した顔にぱちりと瞬き、それから一呼吸開けて分かったと笑って返した。
「あーーっ!ハンカチ渡せばよかった!」
鞄の中のハンカチを思い出したのは、スリザリンの談話室に入ってからだった。
パーシー・ウィーズリー