双子のウィーズリーは他の子に比べるとちょっとばかり悪戯が好きで、そして他の人なら想像ですます悪戯を実行してしまうだけで、本当はスリザリンのみんなが敵視するよりはいい人なのかもしれない。
迷わずにたどり着いた医務室でマダムから異常なしと言われ、呪文学の教室へと急ぐ道中そんなことを思った。
右手にはまだ少しだけ冷たいハンカチ。
心配そうに覗き込む目、良かったと笑った顔。
それらは振りとかじゃなくて、本当のものだったと思う。
うん、やっぱりそんなに悪い人じゃないのかも。
────なんて思ったのだけど、やっぱりそんなことはなかった。
温室の中の空気がぴりぴりしている。嫌だなぁ。
ちらりと室内に目を遣ると、敵対心やら嫌悪感やらを隠そうともしない緑と赤の生徒──がたくさん。っていうか、全員?今年の薬草学はスリザリンとグリフィンドールの合同授業だったりした。先生達、もうちょっと組み合わせ考えろー。
まあ、他の寮との合同授業も控えめに言っても良い空気ではないけれど。それでも、獅子寮に比べたら全然平気。ベリーイージー。
一触即発の重苦しい空気に溜め息を吐きたくなったけれど、なんとか押し殺してスプラウト教授が姿を現すのを待つことにした。
授業まであと1分。というところで、温室の外からばたばたと誰かの足音が聞こえてきた。
気になって出入り口を見たのと同時に、派手な音で扉が開いて双子のウィーズリーが駆け込んできた。
「セーーーフッ!!」
「なにやってたんだよ、フレッド!ジョージ!」
「いやいや、ちょーっとばかし悪戯が長引いちまったんだよ」
「フィルチのやつったらさー」
ドレッドヘアの男の子が声をかければ、騒がしく話し出した双子に眉を顰める。
遅刻ギリギリのくせに、なんであんな大きな態度でいられるのか。
「うるさいなぁ。静かに入ってこいよ」
隣の新しい同級生の男の子が、少し大きめの声を出した。うん、同感だ。ところで、この子の名前は何だったかしら。
非難の声は離れたウィーズリー達の耳に届いたらしく、双子は声がした方────つまり私の方を見てきた。双子の目が丸くなる。違う、今言ったのは私じゃないからね。
「なあ、もそう思うよね?」
「え、あ、うん。うるさかったね」
そうだ。グラハム。グラハム・モンタギューだ。ようやく思い出したところで話を振られ、生返事をしてしまった。
あ、まずい。気づいたところで既に時遅し。
私が肯定したことでグリフィンドール生の顔つきがキッときつくなる。あー、やってしまった。
争いが始まる──と思った瞬間、温室の奥のドアがバンッと開いた。
「さあっ、授業を始めますよ!」
スプラウト先生が今だけは救世主に見えた。
「なあ、君」
温室から出てすぐ、突然ウィーズリーの二人に行く手を遮られた。
教授に質問して遅くなったから、もう誰も残っていないと思ったのに。
ビックリして黙って二人を見上げていたら、片方が「君、去年はいなかったよな?」ととても不審げな顔で聞いてきた。なんとなくだけど、こっちがフレッドだと思った。
「あぁ……うん」
それを聞くかー。今まで他寮生は誰も聞いてこなかったのに。
苦虫を噛み潰したかのような気分で言葉を濁す。……まあいいか。別に絶対隠しておきたいわけでもないし。
「私、留年しちゃったの。だから、本当はあなた達より一つ年上」
私のカミングアウトに、双子はぽかんとまた目を丸くした。
年下扱いしたことに対して謝罪の一つでもしていいんだぞ、下級生よ。
「留年!いやまさか、本当に?君、そんなに頭が悪いのかい!?」
はあっ!?なんだ、この失礼なやつ!珍しいもの──いや、どちらかというと面白い玩具を見つけたかのようにキラキラと目を輝かせた二人に、不機嫌を思いっきり顔に出してやる。
そんな表情の変化に気づかず(気づいていて知らぬ振りをしているのかも)、さっきと反対側のウィーズリーがなんでどうしてとしつこく聞いてきた。
なんでこいつらに話さなきゃならないのか。もう口を開くのも嫌で無視を決めたのに、今度は二人でハモってわあわあ喚くものだから、ついに温厚な私もキレた。
「シレンシオ、黙れ」
杖を突きつけて呪文を唱えれば、あら不思議。ぴたりと二人の声が消えた。
久しぶりに訪れた静寂に、ふんっと鼻を鳴らす。なんて気持ちの良い空気。
突然呪文をかけられて双子は怒ったようだけど、いくら口を動かしてもさっきまでの不快な声が出てくることはない。
なにするんだよ!解けよ!……とでも言っているのだろう相手に、すぅうっと肺いっぱいに息を吸い込む。
「うるっさいな!ばーーーーか!!無神経男は一生黙ってろ!ばーーーーか!!」
頭の悪い罵声だと思った。けど、大声で怒鳴ってちょっとすっきりした。
予想外の大声に双子は少しだけ怯んでいた。その間を突っ切って城へと向かって歩き出す。
気分を害されたお返しにタラントアレグラの呪文でもかけてやろうかと思ったけど、平和主義の私は慈悲深くも許してあげることにした。
決して、双子からの報復が怖くなったわけではないから。
ウィーズリー株、大暴落
(番外編 →
名前も知らない彼女について)