名前も知らない彼女について
「……おい、ジョージ」
「見てるよ、フレッド。あいつだ」
スリザリンのテーブルに向かう人波に目的の人物を見つけ、フレッドと目は合わさずに声をかけ合う。ダークブラウンの髪が耳にかけられていて顔がよく見えた。間違いない。昨日、僕達に呪文をかけてきたやつだ。
あの後は本当に大変だったんだ。しばらく経っても声が出なくて、仕方なく談話室に戻る途中でスリザリン生に遭遇しても避けるように通り過ぎることしかできないし、寮に戻ってもまだ話せず身振り手振りで状況を伝えようとしたらリーに大笑いされるし。
ようやく呪文の効果が切れたのは夕食の時間もかなり過ぎた頃。
「「仕返しするぞ!」」
数時間ぶりの第一声は、二人揃ってそれだった。
席に着いた相手は僕達が見ていることには全く気づかず、隣に座った上級生と談笑をしている。
フライドポテトを口に入れながらもじーっと見ていたら、「二人とも、さっきからどこ見てるの?」いつの間にかアンジェリーナとアリシアが斜向かいの席に座っていた。
「ああ、アンジェリーナ。二人はスリザリンの女に夢中なんだよ」
「「違う!」」
アンジェリーナの疑問にリーがふざけた答えをしたものだから、二人して噛みつくように否定した。よりにもよってスリザリンの女と噂が立つなんて全力でお断りだ。考えただけで鳥肌が立つっ!!それは相棒も同じで、次ふざけたことを言ったらひどい目に遭わせるぞとリーに脅しをかけている。
「ふぅん。……あ、もしかしてあの子?モンタギューの近くに座ってる茶髪の」
「そう。名前知ってるか?」
「知らない。アリシアは?」
「私も知らない。授業で見たことはあるんだけど」
アンジェリーナに尋ねられたアリシアも首を横に振った。女子でも知らないとは。本当にあいつは誰なんだ。最も効果的な悪戯を仕掛けるために、相手の情報を知りたいのに。
「・だ」
その時おもむろに口をはさんできたのは、数席向こうに座っていたパーシーだった。意外な人物からの答えにフレッドと顔を見合わせる。それから同時にパーシーの所へ飛んで行った。
「あいつの名前、なんだって?」
「・」
「なんでパーシーがあの女のこと知ってるんだよ?」
「時々一緒に勉強してたんだよ」
僕達の質問にパーシーはベーコンエッグを食べながら淡々と答える。
女────・について情報がないと思った矢先、クソ真面目だけが売りのパーシーが情報を持っているなんて。
予想外のことに驚いたがこれは都合が良い。貴重な情報源は勝手知ったる相手で、のことを聞き出すことなど容易い。
「じゃあ、なんで留年したのか知ってるか?」
「……知らない」
「なんだよ。役に立たないなぁ」
溜め息とともに吐き出せば、睨むように見てきた。そんな目で見られても全然怖くないし。
「……っていうか、フレッド、ジョージ。まさか本人に聞いてないだろうな」
「聞いた。そしたら呪文かけてきたんだよ」
「馬鹿だよねぇ。そんなの聞いたら怒るわよ」
「二人して金魚みたいに口パクパクさせてて笑えたよな!」
「リーうるさい」
外野からのガヤに文句を言う。フレッドが思い出し笑いをするリーに悪戯グッズをちらつかせるのを横目に、についてもう少し情報を得ようとパーシーを見る。そしてパーシーが、さっきまで自分達が見ていた場所に視線を送っていることに気づいた。
しかも安心したような嬉しそうな顔をして。正直に言って気持ちが悪い。
うええと吐く真似をした時、パーシーがぽつりと言葉を零した。
「戻ってきてたんだな」
呟いた言葉がどういう意味かと追求したかったが、その時タイミング悪くフクロウ便がやってきた。
「僕はそろそろ教室に行くよ」
「あ、おい。パーシー」
フクロウが通り去った後にパーシーが席を立ち、結局その話はそこで終わってしまったのだった。