*
My lovely brtherの続きです。
こつこつ、と静かな廊下に足音が響く。 だんだんと近づいてくるその音に息を潜めて、胸の前で両手を握り、
「シぃぃぃリウスぅぅうううううっっ!!」
「どわぁあああああああぁぁっ!!?」
足音がすぐ傍で止まった瞬間。隠れていた石像の影から飛び出して、硬直していたシリウスに飛びついた。
「っ!?いきなり何するんだ!!?」
廊下に響くほどの大きな声を上げたシリウスは、そのエコーが消えた頃にようやく状況を理解したみたいだった。
そして、すぐに慌てた様子で私を引き剥がそうとしてきたもんだから、抱きつく力を強くした。
だって、新学期初日に未遂で終わってしまって以来、思い続けてきた抱きついて驚かせてやろうという悲願が、ようやく達成できたのだから!
ぎゅうぎゅう思う存分抱きしめて、心の底から幸せに浸って、はたと思い出す。
しまった、今日の目的はこれじゃなかった。
「シリウス・ブラック!!」
ぱっと拘束を解いて、普段は呼ばないフルネームを口にすれば、シリウスは少し戸惑った表情になった。
今日のシリウスは驚いてばかり。
そのことを楽しく思いながら、スカートのポケットから小さな包みを取り出す。
光沢のある黒い包装紙にラメが編み込まれたシルバーのリボン。
「シリウス、誕生日おめでとうっ!!」
その言葉とともに包みを差し出せば、シリウスは今日一番の驚いた顔を見せた。
目を丸くして、口を少しだけ開いて。間の抜けた表情にまた笑いそうになって、だけどシリウスがいつまでもプレゼントを受け取ろうとしないから、控えめに声をかけてみる。
「……今年は貰えないと思ってた」
「あはは、遅れてごめんね」
「これね、この前ホグズミード行った時にレギュラスと選んだの」
「……へぇ、アイツとね」
「何、嬉しい?弟から貰えて嬉しい?」
「別に」
「もー恥ずかしがっちゃってぇー。まあ、お姉ちゃんはそんな素直じゃないところも好きよー」
からかい口調で言えば、シリウスは不満げに眉を寄せた。唇も綺麗なへの字。
その顔が面白くて、堪らず顔を背けて吹き出す。そうしたら尚更機嫌を損ねた気配が伝わってきたけど、笑いを堪えることはなかなか難しかった。
「何はともあれ可愛い弟が喜んでくれたようで良かったわ」
それでも何とか笑いを押し込めて、最後に髪をぐしゃぐしゃにしてやろうと手を伸ばす。
けど、その手は髪に触れる前にシリウスの手に阻まれてしまった。
「なぁ、。一月も遅れたことに対する詫びはないのか?」
私の右手首を掴んだまま、シリウスは薄く笑いを浮かべながら言ってきた。
なんだろう、その笑顔すごく嫌な感じがするんだけど。
「えー……貰っといてそれを言うの?……でもまぁ、そうね。じゃあ、お詫びに一個だけお願い聞いてあげるわよ」
文句を言い返して、でも遅れたことに対して悪いなぁとは思っていたから、シリウスの言い分を飲むことにした。
……多分、いつものお得意のイタズラを仕掛けられるんでしょうけど。
「目、閉じて」
「なぁに、変なことしないでよ」
ほらきた、絶対イタズラだ。
シリウスのニヤニヤ顔に警戒をしながら、言われた通りに目を閉じる。
何をされるんだろう。顔に落書き?髪型を変えられる?それともーー?
「んっ!?」
色々考えてたところにやってきた衝撃は想像していたよりずっと柔らかく、何かが触れたのはーー唇で。
ぱっと目を開けたのと、シリウスの顔が離れたのは同じタイミングだった。
え、え、え?今、なにが触れてたの?まさか、まさか?
状況が理解できなくてぽかんとしていれば、シリウスがお腹を抱えて笑い始めた。
「っくく、なにその顔」
「っ、シリウス!」
「はは、悪いって。でもまさか初めてって訳じゃないだろ」
我に返って怒鳴ってみても、シリウスの笑いは大きくなるだけで、しかも涙目にまでなってるし。完璧にイタズラが大成功した時の笑い方。
というか、シリウスの言葉で分かってしまった。
この子、キスしてきた!!
それに気づいたら顔が赤くなるのは当然で、熱が集まってくるのを感じながらもちょっと叱ってやろうと口を開く。
「初めてとか、そういう問題じゃないでしょうが!」
「ははっ。まぁ、可愛い弟からの早めの卒業祝いだとでも思ってくれよ」
私の怒りを軽く躱して、生意気に笑ってみせる。
いつもと同じ態度のシリウスにさっきのキスがイタズラ感覚のものだったと知って。
「馬鹿シリウス!」
「はいはい。そんじゃ、これありがとな」
それだけ言い残して、さっさと量の方へ歩いていく背中にべーっと舌を出す。
なんでこんな軽い子に育ったのよ!純朴の幼少期からなにがあって!!
幼い日のシリウスの天使のような笑顔を頭に浮かべて、胸の中に溜まった感情を重たい息とともに吐き出す。
、。思い出の中の小さなシリウスがキラキラ笑って、名前を呼ぶ。
だけど、すぐにその姿は今のシリウスになってしまい、収まりかけていた熱がぶり返してきた。
「……初めてだったわよ」
殊更熱を持った唇で紡いだ音に、堪らずその場にしゃがみこむ。
どうか、就寝時間までに熱が収まって寮に戻れますように!!