「あ、起きた」
少し冷たさを感じる女の声と、さらりと流れる金の髪。
顔にかかる髪と同じ金の瞳と、至近距離に視線がぶつかって、
「……おはよう、リリィ」
「おはよ、レン兄。ノーリアクションなんて、つまらないなぁ」
たっぷり一呼吸分の沈黙の後に挨拶をすれば、リリィは無表情にそう言ってベッドの上から下りた。
「これが姉さんなら、慌てふためくくせに」
そんな言葉とともに意味ありげな視線が向けられたけど、伸びをして気づかないふりをする。
「ってか、あんたが寝過ごすなんて珍しいわね。夜、なんかしてたの?」
カーテンが開かれて太陽光が部屋の中に差し込み、その眩しさに目を細める。
「うーん……変な夢を見てたからかも」
「どんな?」
リリィは窓も開けたけど、流れ込んできた冷気にすぐに閉めた。相変わらず寒がりだな。
ベッドからのそのそ這い出しつつ夢の残滓をかき集めようとするけど、すでに靄となっていて全然掴めない。
「……忘れた」
「あっそ」
投げやりな軽い相槌。こいつ興味なかったな。
「リリィ、レン起きた……ぷぷっ」
ノックもなしに扉が開いて、ひょこりとグミが部屋の中を覗く。
そして、俺と目が合った途端に盛大に吹き出した。
「あははっ…!レン、すごい寝癖!」
「えっ!?」
からからと笑うグミに、瞬く間に顔に熱が集まる。
なんで言わなかったんだよ!そんな抗議を込めた視線をリリィに向ければ、ぺろりと舌を出しやがった。
「ごめん、気づかなかったわ」
「嘘つけ!」
あれか、ノーリアクションの仕返しか。
さっきと同じ無表情ながら、微かに口元が弧を描いているのに気づいて声を荒げる。
そうすればニヤリと笑って、逃げるように部屋から出て行った。
「っていうか、グミもいつまで笑ってんだよ!」
押し殺した笑いを続けていたグミにも怒鳴れば、きゃあ!っと楽しそうに声を上げて扉の向こうに姿を隠した。
「あ、忘れてた」
そうかと思えば、またひょこりと顔を出す。
「そういえば、兄さんが執務室来いってさ」
「はいはい」
「それと。おはよう、レン!!」
いっぺんの翳りもない、満面の笑み。
完全に不意打ちだった。
「……おはよ、グミ」
なんとかそれだけ返すと、相手は満足そうに笑って、扉を閉めた。
ぱたぱたと足音が遠ざかって行くのを聞きながら、ニヤつきを抑えられない口元を隠すために枕に顔を埋めた。