君の林檎色
艶やかな赤い唇が離れる。
ぱちりと開いた翡翠の瞳は、照れた様子もなくただ少し柔和に細くなる。
キス、しちゃったね。たった数秒前まで零距離に触れていたそれは、からかうような声色で言葉を紡ぐ。
そうしてくすくす笑うから何事かと首を傾げれば、林檎みたいと告げられた。
折角耳まで広がる熱を認知しないようにしていたのに、その言葉によってぶあっと一気に首まで熱が広がった。
「ほんとうに君はかわいいね」
そう言って微笑んだ彼女に、未だに生々しい感触を残す唇を噛む。
彼女と何かをする度に、心を占めるのは全身を灼くような熱と彼女に翻弄される自分に対する自己嫌悪。
いつも彼女は平然としていて、余裕がないのは僕ばかり。
それは僕が彼女より年下で、彼女より背が低くて、そんなことが原因なんだろうか。
少しばかり高い場所にある彼女の目を見返せば、先程の僕と同じように首を傾げる。
沈黙を続ける僕に、蠱惑的な赤がゆっくりと動いて、
「レンく、」
言い終わるより先に、鈴を鳴らすような声は唇の中に幽閉され、やがて融解する。
すべてを貪り尽くす、獰猛な口づけ。
彼女を見返すためと考えた口づけにはほど遠い、軽いリップ音を立ててすぐに唇は離れる。
離れ際に名残惜しく舌先で赤をなぞってみせれば、びくりと彼女の体は僅かに震えた。
「グミさんも可愛いですよ」
ほんとうに僅かに頬を朱に染めた彼女に向けて吐き出した。
何度互いを重ねれば、彼女が林檎になるだろうか。
濡れた唇にゆらり熱が煽って、三度彼女との距離を零にする。