awareness
足を挫いてしまった。
じんじんと痛みを訴えてくる足でなんとか立とうとして、しかしあまりの痛みに再びベンチに座り込む。
「あー、どうしよう」
群青の空を見上げ、息を吐き出す。
携帯は電源が切れてるし、財布は忘れたし。
がく兄は今日は帰らないって言ってたから、私を探しに来てくれる人もいない。
ぴゅうと吹いた風にコートの上から体を抱く。制服のスカートとニーソの間の微妙な隙間がメチャクチャ冷たい。
「ここで野宿とか笑えないよー」
こんな真冬にこんな外に放り出されたら死にかねない。
チカチカッという音と共にベンチの横の電灯に明かりがついて、これはもう這ってでも帰るしかないと諦めにも似た気持ちで決めた時。
「神威?」
遠くから名前を呼ばれ、ばっと顔を上げれば公園の入り口に鏡音がいた。
「鏡音ぇ……っ」
怪訝そうな顔で近寄ってくる鏡音に、知り合いに会えたことにほっとして泣きそうな声が出る。
「ど、どうしたんだよ?」
ぎょっと目を見開いた鏡音に足を挫いたと言えば、なんでと聞き返され、
「子どもと鬼ごっこしてて、転んだ」
そう言えば、はぁとため息をつかれてしまった。
「お前なぁ……」
「だって、遊んでたら本気になっちゃって」
「……で、お前家はどこなんだよ?」
「え?」
鏡音の言葉に首を傾ければ、え?ってなんだよと眉を寄せた鏡音に言われる。
「家聞いてどうするの?」
「送ってくに決まってるだろ」
「送るって言われても、私歩けないんだけど」
そう言えば、鏡音はまた息を吐き出して、
「そんなん見りゃ分かるっての。おぶってってやるって言ってんだよ」
呆れたように言われた言葉に目を瞠る。
「え、おぶ……?鏡音が?」
「他に誰がいるんだよ」
「いやいやいや、無理でしょ!!だって鏡音、私より小さいじゃん!!」
顔の前で手を振りながら大きな声で言えば、鏡音は不機嫌な表情になる。
でも実際無理じゃないの。鏡音はクラスでも小さい方で、私の方がだいぶ身長高いし。
「じゃあ他に方法あるのか?お前がここにいたいっていうなら別に良いけど?」
苛立った声にぐっと言葉が詰まる。
確かに鏡音に連れて帰ってもらう以外、帰宅する方法は見当たらない。
どうするんだという無言の視線を前に暫し沈黙し、
「……お願いします」
小さく呟くと、鏡音は背負っていたリュックサックを下ろして私に渡してきた。
「ほら、早く乗れよ」
背中を向けて屈んだ鏡音に暫く迷っていると声をかけられ、決心をして鏡音のリュックサックを背負う。
そして挫いた足に注意を払いながらベンチから腰を浮かせ、鏡音の首に腕を回す。
「んじゃ、立つぞ。掴まっとけよ」
それに頷くと鏡音は立ち上がったのだが、その動作があまりにも軽々としたものだったから、私はえ?と小さく声を零してしまった。
「なんだよ、どうかしたか?」
「っな、なんでもない!」
それを聞き取った鏡音が振り返って、至近距離の水色の目に勢いよく首を振る。
鏡音は少し首を傾げたけど、公園の出口に向かいながら家どっち?って聞いてくる。
(私より小さいのに……)
もっと非力だと思っていた。だけど鏡音は全く辛そうな気配を見せなくて。
(鏡音も男の子なんだなぁ)
そのことに気づいたら、胸の鼓動がちょっと早くなった。
その20分後。
「えっ、神威って同じ町内だったのかよ!?」
実は鏡音の家と私の家がもの凄く近かったってことが分かったのだった。