未来永劫ご飯係
「お前ってある意味凄いと思うぜ、いや本当に」
眉間を押さえながらそう吐き出した俺に、カスミは不機嫌そうに一文字に結んでいた唇を開いた。
「どういう意味よ、それ」
「料理のカテゴリに属すのか疑わせる摩訶不思議なものを作り上げるなんて、ある意味凄いと思ったんだよ。で、何を混ぜたらこうなるわけ?」
「何って、レシピに書いてあった材料とあと隠し味にいろいろ」
「だから隠し味とかやめろって言っただろ!レシピ見てもまともな料理一つ出来ないのに隠し味とか百年はえぇよ!」
「な、何よ!私だってちゃんとしたもの作れるわよ!」
「こんな気味悪い物体を目の前によく言えるな」
嫌みを込めてそう言うとカスミは悔しそうに押し黙り、テーブルの中央で皿に載った、一億歩譲っても全く美味しそうには見えない紫色の物体を睨みつける。
因みにこの謎の物体Aは、カスミ曰くオムライスらしい。どう頑張っても見えねえよ。
そんなことを考えている俺の視線の先で、カスミが真剣な顔でスプーンを握った。
そして、
「ちょ、おいっ!?」
皿を引き寄せたかと思うと、スプーンで一掬いして口へと運んだカスミに目を剥く。
「なにしてんだよ!?」
慌てる俺を余所にカスミは口の中に入れたもの咀嚼し、
「っ、」
思い切り顔をしかめつつも飲み込み、無言でスプーンを皿の脇に置いた。
「……美味しくない」
「だろうな」
俺は今日何度目になるか分からない溜め息を吐き出すと、カスミを残してキッチンへと向かった。
「うん、美味しいわね」
「そりゃあ、お前のに比べたらな」
15分後、カスミは俺が作り直したオムライスを口に運んでいた。
美味しいという褒め言葉が少しくすぐったくて、つっけんどんに返してしますとカスミが睨んできたが、視線を逸らせば再び食べ始めた。
「……カスミさぁ、そんなんで将来大丈夫なのかよ?毎食、コンビニ弁当とかになるんじゃね?」
視線を戻して、呆れと少しの心配を込めてカスミへと尋ねる。
するとカスミはスプーンを運ぶ手を途中で止めてたった一言。
「ならないわよ」
真顔でそう返してきた。
そして、何処にそんな自信があるんだと言い返そうとした俺を遮って言う。
「だって、サトシが作ってくれるでしょ?」
その声があまりにもいつもと同じで、その目があまりにも疑いを持たずに真っ直ぐに俺を見ていたから。
カスミが一人でコンビニ弁当を食べる光景を想像するよりも容易く、俺と二人で食卓を囲む未来を思い浮かべることができてしまったのだった。