ブルー・ブルー
「暑い……」
じりじりと肌を焼く太陽の熱に口から零れ落ちた言葉に、隣から鼻を鳴らすのが聞こえてきた。
「んな分かりきってること言うな」
そう言うグリーンは、腕を組んで光を反射させるプールの水面を睨むように見ている。
「なんでこんな日に水泳なんだよ」
「るせぇなぁ。黙って待っとけよ」
ぼそりと吐き出せばグリーンは水面から俺へと睨みを向けてきて、それに疑問を抱いて口を開いた。
「お前、なんでそんなにやる気なわけ?水泳好きだったか?」
そう問いかけるとグリーンが俺を振り返った。
「お前、知らないのかよ」
そう言うグリーンの目は驚きに丸くなっている。
その反応の意味が分からなくて何をと返そうとして、
「うおおおおぉぉぉおおお!!!」
「?!」
その前に答えはやってきた。
プールの入口方面から波のように沸き上がった野太い歓声。
何事かと目をやった先には、カラフルな水着を身につけた女子達がいた。
それを目にして、そういえば今日は男女合同だとか連絡があった気がしなくもないことに気づく。
男共の視線に女子達は不快そうに眉をひそめては、彼らから離れた場所で固まりを作る。
「まぁ、なかなかってとこだな」
その声に隣を見れば、グリーンは女子を見ては口角を上げたり口笛を吹いたりしていた。
そんな悪友から視線を外して、周りの男子と同じように女子を見る。
だけど、どんなに際どい水着の女子や豊満な胸をした女子を見ても、全く気持ちが上向く気配はなく。
女子からプールの水へと視線を動かし、暑いなぁと吐き出した時、
「ちょっと、そこの馬鹿達」
鼓膜を震わせた声に、心臓が跳ねた。
足音が近づいてくるのに視線が動かせず、視界の端に白く細い脚が入った時にやっと動いた。
上げた視線の先の、太陽の光を浴びて輝くオレンジの髪。
陶器みたいに白くて滑らかな肌。
すらっと伸びたほどよく肉のついた脚。
その身体を包む、セパレートウェア……?
「お前、セパレートとかまじないぜ。色気なさすぎだろ」
「余計なお世話よ」
珍しくグリーンの意見に賛成した。
何故、一人だけビキニじゃないんだ。
そう思っていたら、眉を吊り上げたカスミが俺を見て、見事に視線が交わった。
「なによ、あんたも文句あるの?」
「……まな板」
途端、頭をビート板で殴られた。それはもう、何の迷いもなく全力で。
「〜っっ!!」
ビート板で殴られたとは思えない痛みに悶絶し、頭を押さえながらその場に屈み込む。
目には涙まで浮かんできていた。
カスミはそんな俺を見下ろして不機嫌そうに鼻を鳴らすと、踵を返して女子の集団の方へと歩いて行った。
「馬鹿だなぁ、お前」
「うるさい」
グリーンのせせら笑いに不機嫌な声を返し、太陽の光を反射する水面を見つめる。
太陽の光を反射する水面はきらきらと輝いて、そこに映るのは馬鹿みたいに青く透き通った空。
さっきほど暑さを感じなくなった自分に気づいて、俺は小さく失笑を零したのだった。