命懸けのOld Maid
教室の窓の外に広がる、とても昼とは思えないほどに暗い景色。
校庭では木々が大きく揺れていて、今にも折れてしまいそうだ。
窓に雨粒が当たる音を耳にしながら、たった今終わらせた机上のプリントに目を落とし、答えの確認をしようとして、
「また負けたああぁっ!!」
耳に突き刺さった悲痛な声に、重い息を吐き出した。
シャーペンを机の上に置いて後ろを振り返り、二つ後ろの席に集まった三人の生徒を睨むように見る。
「そこ、うるさい」
不機嫌さを全面に押し出した声を投げると、一斉に三人が私を見た。
そして私と目が合うと、ハルカは誤魔化すように笑い、シュウは無言で目を逸らし、
「なんだよ、他の奴らだって騒いでるだろ。なんで俺達だけに言うんだよ」
眉を寄せてそう言ったサトシを、殺気を込めた目で睨みつける。
椅子から立ち上がり、つかつかと彼らの席に近寄る。
「またトランプを持ってきたの?この前、見つかって没収されたのに馬鹿じゃない」
机の上に山となったトランプを、それから私を睨みつけるサトシを見てきっぱりと言い放つ。
「馬鹿って、お前」
「ハルカ、自習課題は終わったの?」
サトシの声を無視して、トランプの山を纏め始めたハルカに問いかける。
ハルカは私の声ににっこりと笑い、一言。
「まさかかも!」
「ハルカ……そんなに明るく言わないで」
それはそれは清々しいほどの笑顔で言った。
予想していたとはいえ、かけらも悪びれる様子のないハルカに額を押さえる。
隣でサトシが笑い声を発するのを聞きながら、正面で我関せずとばかりに本を読み始めたシュウを見る。
「……シュウもよ。学級委員長が自習時間にトランプなんて」
恨めしげな声で言うと、シュウは口元に微笑を浮かべながらごめんと謝罪の言葉を述べた。
「けど、売られた勝負は買わないわけにはいかないだろ?」
そう言って笑うシュウに、ますます頭痛が酷くなる。
「ねぇ、カスミもババ抜きやろっ!」
「やらないわ。午後の授業の予習」
「今、お昼ご飯を賭けて勝負しててね。買ったらお昼奢ってもらえるよ!だからやろう!ってか、強制参加かも!」
「やらない」
無邪気に誘いの言葉をかけてくるハルカに適当な言葉を返して、自分の席へと足を向け、
「なんだよ、負けるのが怖いのか?」
嗤いを含んだ声に足を止めてサトシを見下ろすと、サトシが口角を上げて私を見ていた。
「……怖い?私が?」
また、挑発に乗ってしまった。
頭の奥で後悔したときには、私はハルカが用意していた椅子に座っていたのだった。