ライクォァラブ
「カスミはサトシが好きなの?」
頭の中に響いた言葉に、冷えてきた空気を吸って瞼を下ろす。
「カスミ!」
鼓膜を震わせた声に瞼と顔を上げて声の発信源に首を回すと、昇降口から出てくるサトシの姿を見つけた。
そして、その姿越しに涙目でこちらを見る一人の女子生徒の姿。
しかしその姿はすぐにサトシの体に遮られて視界から消えた。
「わりい、待った?」
申し訳なさそうに聞いてくるサトシに首を横に振り、足元に置いていた鞄を持ち上げた。
「今日シゲルの奴がさー」
家路を歩きながら他愛のない会話。
保育園の時から変わらないいつもと同じ帰り道、のはずなのに。
頭の中で繰り返される声と視線が心をざわつかせる。
「カスミどうしたんだ?」
不意にかけられた声に視線を上げると、訝しげに眉を寄せたサトシと目が合い、
「──クラスの子にね、サトシを好きなのかって聞かれたの」
気づいた時には、言うつもりなんて微塵も無かったことを口にしていた。
「……っはあ!!?」
サトシは慌てたように声を上げ、顔を真っ赤にさせる。
その反応に驚き、そんな私を見てサトシはあらぬ方に顔を向けた。
間に落ちた嫌な沈黙に目を伏せる。
「……正直、よく分からないの」
ぽつり、と本当に小さな声でそう吐き出すとサトシの肩が少し震えた。
「確かにサトシのことは他の男の子よりも好きだし大事だよ。……けど、それが恋愛感情かどうかは分からない」
視線を感じながら、再び口を開けばずっと考えていたことが止まることなく音となる。
「だってサトシはずっと一緒にいたし……」
そこで口ごもりながら言葉を切って顔を上げ、
「だけど、サトシが女の子に告白されるのは嫌なの」
頭の中で女子生徒の視線と自分の中で蠢いた負の感情を思い出しながらそう言い切り、サトシの目を真っ直ぐに見つめる。
二度目の、沈黙。
「……ごめん。全部忘れて」
さっきよりも重い空気に耐え切れず、気まずさを感じながら黙ったままのサトシから目を逸らす。
そして別れの言葉を告げてその場を立ち去ろうと考えた時、
「今の忘れないから」
サトシの静かな声に瞬きをし、ゆっくりと顔を上げる。
交わった視線の先にあるサトシの目は真剣で、息をするのも忘れてその目に捕われる。
「だから、カスミはちゃんと考えろよ」
「え?」
サトシの言葉の意味が分からず疑問符を上げるが、サトシは考えろと繰り返すだけ。
「急がなくて良いから考えて。ずっと待つから」
そう言って口を閉じたサトシを見つめ、
「……分かった、考える」
そう返したのは、数秒後か数分後か。
「その代わり、ちゃんと待ってなさいよ。待つの止めたら承知しないから」
そう言った私に、サトシは楽勝だと言って満足そうに笑った。
とくん、と心臓が高鳴った、気がした。