お披露目タイム
顔にかかる光に意識を覚醒させると、窓の外から小鳥の囀る声が聞こえてきた。
陽光から逃げるようにベッドの上で寝返りを打ち、耳に心地好いそれに瞼を下ろす。
そして二度目の夢の世界へ行こうとした時。
「サトシーっ!!!サトシ、サートーシっ!!」
鼓膜に突き刺さった幼なじみの大声に、額に血管を浮かばせながら薄く目を開いた。
「サトシ、朝っ!いつまで寝てるの!!」
大声とドアを叩く音に顔を顰め、枕の横にあった携帯を開いて現在の時間が怒鳴られるような時刻では無いことを確認する。
ドアの外の声をシカトして二度寝してやろうかと考えるが、諦めるどころか更に激しくなる音に息を吐き出してベッドから抜け出す。
そしてささやかな反抗として、ぼさぼさの髪を掻きながらわざとゆっくりとドアへと向かう。
「なんだよ、こんな朝っぱらから……!?」
そして、重たい息を吐き出してドアノブを捻り、固まる。
「遅いっ!!」
腰に手を当てて目を吊り上げながらそう言ったカスミの、つい半月前までほぼ毎日見ていた母校の真新しい制服に身を包んだ姿に目を見開いた。
突然のことに寝起きの頭は完全にフリーズ。
そんな俺を見てカスミは口角を上げ、似合ってるでしょ?と強気に問うてきた。
「……」
「サトシ?」
「……変…っ痛ぇっ!何すんだよ、カスミ!」
長い沈黙の後に言葉を返した瞬間、脛を襲った激しい痛みに膝をつき、その体勢のままカスミを見上げて睨みつける。
しかし、返ってきた視線に混ざった本気の怒りと殺気に固まってしまう。
「あんた、褒めるとかできないの!?」
怒りからか、カスミは耳まで顔を赤くして声を荒げてそう言った。
「そんなんだから、高校生になるってのに彼女の一人もできないのよ!」
その言葉に俺は勢いよく立ち上がり、額に青筋を浮かべながら頭一つ低いカスミを見下ろす。
「んだと!お前だって彼氏いねえだろうが!」
そして同じように声を荒げて、鋭い目で見上げてくるカスミに言い返す。
「私は今からだもんね!見てなさいよ、すぐにかっこいい彼氏作ってやるんだから!!」
カスミはびしっと俺を指差すとそう宣言をして、俺が言い返すよりも早くスカートの裾を翻して階段を駆け降りて行った。
そしてその場に取り残された俺は半開きの口を何度か開閉させ、
「くそっ」
行き場の無い怒りを吐き出し、部屋に入ると怒り任せにドアを閉めた。
──すぐにかっこいい彼氏作ってやるんだから!!
途端、勝手に頭の中でリピートされたカスミの捨て台詞に増幅していくイライラに、奥歯を強く噛み締める。
年下のアイツに負けたことに腹が立って。
年下のアイツを相手にムキになる自分に腹が立って。
言葉を無くすほどに制服が似合っていたアイツに、素直に言葉を言えない自分に腹が立って──。
イライラの原因を考えるにつれて冷静になり、そして同時に自分が情けなくなっていき、ずるずると力無くその場に座り込む。
「……つーか、スカート短すぎなんだよ」
そして、重くて苦い溜め息と共に、階段を下りていくカスミを見て思ったことを吐き出した。