好かれ度
そりゃあ、自分の彼女が他人に嫌われているよりは好かれている方が嬉しい。
嬉しい、けれど。
「カスミ大好きーっ」
「ちょっとヒカリ、私の方がカスミのこと好きかもっ!」
ハルカとヒカリが嬉々として口にした言葉に僅かに眉を上げ、思わず開きそうになった唇を噛む。
そんな俺に気づかずハルカ達は間にいるカスミの腕に自分の腕を絡めたり、抱きついたり。
(あいつら……!)
ふつふつと沸き上がってきた怒りを拳を握ることで何とか抑える。
カスミは好かれ過ぎだ。
初めてそう思ったのは随分前のことだけど、カスミとの関係を旅仲間から恋人へと変えてから尚更それを感じるようになった。
カスミは誰にでも好意を持たれる。
それは人に限らずポケモンも同様で。
一度そのことをカスミに言った時は、それはあんたの方でしょと呆れたように言い返されたけど、俺の考えは間違ってないと改めて思い始めた今日この頃。
「だああああっ!!お前らカスミに引っ付きすぎ!つーか好きって言うな!カスミは俺の彼女なんだよ!!」
────と、あいつら二人がカスミに絡む度に何度怒鳴ろうと思ったことか。
だけどそれを行動に移すことは大人気ない気がして、今まで何度も自分を抑えた。
しかし。
「ほんとサトシには勿体ないかも!!」
「同感っ!ねえ、カスミ。今からでも遅くないから考え直した方がいいわよ!」
「そうねぇ……」
ハルカとヒカリの言葉に考え込む仕草を見せたカスミに、遂に我慢の糸が切れた。
「お前らなあっ!さっきから勝手なこと言い過ぎなんだよ!!ていうかカスミっ!そこは言い返せよ!お前は俺の彼女だろっ!」
突然怒鳴った俺に三人は目を開いて驚き、しかし次の瞬間にはハルカとヒカリは反撃体勢に入った。
「何よ。サトシ聞いてたの?盗み聞きなんて趣味悪ー」
「っていうか、冗談かも。そんなムキになるなんてサトシ大人気ないかもー」
戦闘時間五秒。
嘲笑混じりの言葉にぐっと詰まり、それを見て勝ち誇った表情になった二人を睨みつけ、
「カスミ行くぞっ!」
「わっ!?ちょ、ちょっと!サトシ!?」
完全に傍観者を決め込んでいたカスミの手を引いて走り出した。
「あはははっ!ほんとサトシおかしいかもー!」
「ほんと、ほんと!ねえハルカっ、次はどうしよっか!」
俺達がいなくなった後に二人が至極楽しそうにそんな会話をしていたことを俺が知るのは、まだまだ先のこと。