観察対象
長い午前の授業と、眠くなる午後の授業の間。至福の昼休み。
その貴重な時間を私は現在進行形で苛々した気持ちで過ごしている。
「……」
その原因である教室前方でクラスで二番目に可愛いと言われている女の子と楽しそうに話す悪友を見て、
「……」
最後列の自分の席で本を読みながら、時々そんな彼らに不安と嫉妬が入り交じった視線を投げる学年一可愛いと評されている親友を見て、
「……いい加減苛々してきたかも」
小さく呟く。
「カスミー、呼び出しだよー」
「あ、うん。今行く」
教室後方のドアの近くにいた子に呼ばれて教室から出て行くカスミの背中を見送り、ふと窓際に目をやれば。
「……」
女生徒から視線を外し、不機嫌そうな表情でカスミが出て行ったドアを睨むサトシの姿が。
「サトシ君聞いてる?」
「あ、あぁ。聞いてる聞いてる、でなんだっけ?」
女の子に呼ばれて視線を戻し、作り笑いをするサトシに眉を寄せ視線を外す。
どうして彼らはお互いがお互いを想っていることを知らないのだろう。
周囲から見ればあまりにも歴然としたことなのに。
しかし、それを本人達に伝えるというのはお節介な気がするから観察者であるのだけれど。
そうは分かっていてもここまで見事にすれ違っていると苛々する。目茶苦茶焦れったい。
「なんで二人とも分からないのか不思議かもー」
はぁと息と共に言葉を吐きだし、机に突っ伏す。
「ハルカ、余計なことしないでくれよ」
そして、突然上から降ってきた声に勢いよく顔を上げれば、机の横にシュウが立っていた。
「……余計な事って何かも」
「どうせ、また何か企んでるんだろう?」
睨むような目で見られ、反射的に口を開く。
「べっ、別に体育館倉庫に二人っきりにさせようとか思ってないか……あ」
口から出た言葉に慌てて口を押さえるが時既に遅く。
シュウはわざとらしく大きく溜息を吐くと、呆れたような視線を向けてきた。
「べっ、別に良いじゃないの!二人は両想いなんだし、付き合って欲しいんだから!」
「やめときなよ。君が絡むと絶対面倒なことが起こるから」
「なんですってぇっ!!」
そう怒鳴り返せばシュウはまたあのムカツク視線を向けてきて、その瞬間、抗戦すべく椅子を蹴って立ち上がった。
そうして、声を抑えることなく(一方的な)口喧嘩を始めた私は未だ知らない。
私とシュウもまた、他者からすれば絶好の観察対象であることに。
教室にいたクラスメイトから好奇な目が向けられていることに気づくこともなく、私達は仲裁役であるカスミが帰って来るまで口喧嘩を繰り広げた。