Reverse
姿を見れば、隠れる。
声をかけられれば、逃げる。
腕を掴まれれば、殴る。
「──って、それじゃ全然だめかも!!」
カスミの口から語られた問題行動の数々に、ハルカは思わず両手で机を叩き大声で叫んだ。
そんなハルカの反応にカスミは眉を下げ、窺うようにハルカを見る。
「でも……」
「でもじゃないかも!!」
迷うように口を開いたカスミに、ハルカは大声で言葉を被せる。
「サトシって、ほんとになんでか知らないけどモテるんだから!そんなことじゃ他の子に取られちゃうかも!」
「わ、わかってるわよ。だから、もう少し小さな声で話してっ」
そう言ったカスミの必死な声にハルカは続けようとした言葉を飲み込み、代わりに大きく息を吐き出しながらやや乱暴に椅子に腰掛けた。
そして、自分の大声のせいで向けられた複数の視線を避けるように顔を俯かせたカスミを見て、小さく頬を膨らませる。
「……あのね、カスミ。今までサトシのこと友達だと思ってたから混乱するのは分かるけど、そんなんじゃ嫌われるかもよ?」
「……っ」
自分の言葉に震えたカスミの肩にハルカは優しく手を乗せ、
「嫌でしょ?」
「……当たり前よ」
「じゃあ、前みたいにサトシと話せるようにならなくちゃかも!」
顔を上げたカスミに力強く笑いかけた。
「……うん」
小さく、しかししっかりと頷いたカスミに、ハルカの心の中に安堵感が溢れる。
「それじゃ、まずはサトシにさっき殴ったこと謝りに」
「カスミっ!!」
ハルカの言葉に被さるように聞こえてきた声に二人が教室前方に視線を向けると、そこには不機嫌さを微塵も隠そうとしないサトシが立っていた。
「──っ!!」
「えっ、カスミっ!!?」
その瞬間、カスミは派手な音を立てて椅子から立ち上がった。
そしてハルカの驚く声に反応することなく、サトシとは逆の教室後方のドアへと一目散に向かい、教室の外へと姿を消した。
残されたのは口を開けたままのハルカとカスミが逃げ出したドアを睨みつけるサトシ、そしてそんな空気を愉しむクラスメイト達。
空気の止まった教室に、不意に明るいメロディの着信音が流れる。
「……ちょっと、カスミ!!全然話が違うかもーっ!!!」
そして、それを掻き消す様にハルカの怒鳴り声が教室中に響き渡った。