可愛い人
「どーよ、シュウ」
紺色の生地に赤や黄の花火があしらわれた浴衣の腰に手を当てたハルカは、対峙するシュウとサトシに勝ち誇ったように言った。
「可愛いでしょ?」
その隣に立つ、ハルカにその浴衣を着せた本人であるカスミは微笑みながら言葉を添え、シュウの回答を促す。
そして、数秒後。
「美しくないね」
シュウははぁと息を吐いた後、いつもの口調でそう言った。
その言葉に二組の間に重い沈黙が下りる。
「……んな、なんですってえっ!!?」
そして、ハルカの怒りに震えた声が沈黙を破った。
「シュウ、あんたねぇっ!」
「ほら、全然美しくない。折角の服が可哀相だよ」
「っ!!」
怒りから顔を赤くしたハルカは、自分の怒鳴り声にも全く動じずに見下ろしてくるシュウに詰め寄る。
そして、呆れたような表情でそう言ったシュウに顔を真っ赤にし、
「……シュウ君」
そこで挟まれたカスミの声に後ろを振り返った。
そして、自分の横を通ってカスミへと近寄っていったシュウの背中を、射殺さんとばかりに睨みつける。
それに気づいているはずなのに平然としているシュウを見上げ、カスミはシュウ君と再び名前を呼ぶ。
「カスミ先輩、行きましょう」
「えっ、わっ!ちょっと、シュウ君!」
そう言うや否や、自分の手を取って歩き出したシュウに驚いた声を上げる。
「あっ!おい、カスミっ!」
それまですっかり蚊帳の外だったサトシが、シュウの行動に声を上げ、人波に紛れる二人を追いかける。
「サトシ行くわよっ!」
しかし、それよりも先にシュウがカスミにしたのと同じように手、ではなくシャツの裾をハルカに引っ張られた。
「おい、ハルカ…俺はカスミに用が……」
肩越しに後ろを見てハルカに反論しようとしたサトシは、途端に肌を撫でた負のオーラに体を固まらせた。
「サトシ、ちょっと黙っててほしいかも」
そして、向けられた声と視線にごくりと生唾を飲み込み、こくこくと首を縦に振った。
「ハルカ可愛かったわね」
「そんなことないですよ」
ハルカ達から離れて少し経った頃、カスミの声にシュウは足を止め、掴んでいた手を放した。
そして、自分の横でくすくすと笑うカスミに向き直る。
「シュウ君」
「はい?」
名前を呼ばれ、不思議そうに自分を見てくるシュウにカスミは目を細める。
「美しくないよ?」
そして、そう言って楽しそうに笑った。