特等席
あいつがいつも目の前に広がる海をここから見ているから。
同じ場所で同じものを見たら、私もあいつと同じ何かを感じられると思った。
だから、私はルフィの特等席に座ってみることにした。
波を掻いて、船が進む。
視界に入るのは、空と海の永遠の青。
潮風に靡く髪を手で押さえようとして、
「きゃっ!?」
不意打ちの大きな揺れに、慌てて両手でメリーにしがみつく。
そう。船はいつでも、波によって揺れている。特に船首は大きく。
揺れが小さくなったことを確認して、メリーの上で慎重に体を起こし、大きく息を吐く。
「ナーミー」
間延びした声に名前を呼ばれた。
「ルフィ」
振り返れば、頬を膨らませたルフィがこっちに歩いて来ていた。
「そこ。おれの特等席だぞ」
「あ、うん。ごめん」
メリーを指差して拗ねたように言うルフィに謝り、メリーの上から甲板に飛び下りる。
そして、メリーの頭に手を乗せて口を開く。
「ここって、結構危ないわね」
「そうか?」
「そうよ。揺れるし、下は海だし。よくあんたはそこに座ってられるわね……私には無理だわ」
そう言ってルフィから視線を外して、今は穏やかな海を眺め、
「ナミ、ナミっ」
楽しそうなルフィの声に振り返る。
「ここ、来いよっ」
甲板にあぐらをかいて、自分の膝を叩きながらそう言うルフィを見下ろす。
「……ここって、どこよ?」
「いいから、来いって!」
ルフィが満面の笑顔で言うもんだから、渋々足を進めルフィに近付く。
「きゃあっ!?」
不意に、伸びたルフィの手に腕を引っ張られてバランスを崩す。
ルフィの足の上に座った私に手が巻かれる。
「ここなら揺れないし、怖くないだろ」
そう言って、にししと笑うルフィ。
「あんたねぇ……」
私の怒気混じりの声に、ルフィは更に力を込める。
「ここが、ナミの特等席な」
笑いを含んだとても楽しそうな声でそう言った。
その言葉に、黙り込む。
「ん?ナミ、どうした?」
不思議そうに聞いてくるルフィに言葉は返さず、体の力を抜いてルフィの体に寄りかかる。
「ナミ?」
「特等席、なんでしょ」
驚いた声を出すルフィに小さな声でそう返せば、
「そうだぞっ」
痛いくらいに強く抱きしめられた。
ルフィと同じ場所で同じものを見ても、ルフィが感じる何かは分からなかったけど。
ルフィが傍にいてくれるなら、それでいいと思ってしまった。