待ちぼうけ
子供の時は不思議だった。
どうして自分には親という存在がいないのか。
考えて、何となくだけど理解して寂しさを知った。
アカデミーの授業の後、毎日公園でキバ達と遊んだ。
そして日が暮れる頃、少し怒りながらも迎えに来てくれる存在が自分にはいないことに、潰れてしまいそうなくらいの寂しさを感じた。
他の奴らが帰って、一人ブランコに座ってどれだけ待とうと迎えに来る存在は絶対にいなくて────。
「ナルト」
頭上から降ってきた声に顔を上げると、目の前に両手を腰に当てたサクラちゃんが立っていた。
「サクラちゃん」
その姿を見ただけでふにゃりと頬が緩む。
「どうしたんだってばよ?」
「あんたが帰って来ないから探しにきたのよ!夕飯の買い出しにどれだけかかってるのよ」
サクラちゃんの怒鳴り声に体を竦め、恐る恐るサクラちゃんを見上げる。
不機嫌なオーラを背中に纏って見下ろしくるサクラちゃんは、顔にかかった髪を払うと腕を組んで口を開いた。
「で、ナルト。あんた、買い物は?」
「……あ」
「あんたねえっ!!」
「ご、ごめんなさいっ!!」
さっきより大きさも含まれる怒気も大幅に増した怒鳴り声に、頭を庇うように両手を上げる。
「ったく、もう……」
サクラちゃんは呆れたように言葉を呟いて組んだ腕を解き、
「ほら」
右手を俺に向かって差し出した。
「?」
その手と顔を背けたサクラちゃんを交互に見て首を傾げる。
「あんた、ずっとここにいるつもり?」
「そんなわけないってばよ」
「じゃあ、さっさと帰るわよ」
「え……」
「帰るって言ったの。ああ、でもその前に買い物か……もうっ!動きが遅いっ!!」
サクラちゃんは苛立たしげに舌打ちをして、全く動こうとしない俺の手をやや乱暴に掴んだ。
そして俺の手を引いて立ち上がらせると、踵を返して早足に歩き出した。
無言で歩いていくサクラちゃんの背中を見下ろし、微笑する。
「サクラちゃん」
「なによ」
まだ怒りが冷めていないらしく不機嫌な声で返事をしたサクラちゃんに小さく苦笑いをして、
「今日は一楽行こうってば」
俺の手を引く、自分よりも小さく温かい手を握り返す。
「……あんたの奢りだからね」
「分かってるってばよ」
声はまだ不機嫌そうだけど、俺の手を握り返してくれたことに頬を緩ませる。
そして、そっと肩越しに後ろを振り返り、微かに揺れる今まで座っていたブランコを見て、
「ほら、行くわよ」
「うんっ」
笑って前を向いた。