空に向けて
「ブランコって、どんくらいまで漕げるのかな」
錆び付いてキーキーと少し耳障りな音を立てるブランコを漕ぎながら、独り言のようにそう言った。
「え?」
するとそれが聞こえたのか、隣のブランコに座っていたサクラちゃんが不思議そうな声を上げたのが耳に届いた。
「どんくらい漕いだら、空に届くのかなぁ」
それに答えるように、少し声を張り上げて言い返す。
「何言ってるんだよ、ウスラトンカチ」
それに返ってきたのは、馬鹿にしたようなサスケの声。
視線をサクラちゃんとは逆の方に向けて、ブランコを囲う手摺りに腰掛けたサスケを睨みつける。
しかしその効果は全くなく、サスケは冷ややかな視線を返してきただけだった。
その視線に無性に腹が立って、
「よしっ」
一つ声を上げると、ブランコを漕ぐ足に力を入れた。
ぐんっとブランコの勢いが増し、体に当たる風が強くなる。
「ちょ、ちょっとナルト?!危ないわよっ!!」
「見とけよ、サスケっ!」
慌てたサクラちゃんの言葉を無視して何度か膝を曲げ、
「おらあっ!!!」
ブランコが頂点に達したとき、鎖から手を放して青空へと飛び込んだ。
「う……」
「やっと気づいた?」
「……へ?サクラちゃん……っ痛ぇ!?」
溜息と共に降ってきた声に目を開き、後頭部に響いた鈍い痛みに呻き声を上げる。
肘をついて上体を起こし、鈍痛を訴える後頭部に手をやれば、何故か少し膨らんでいた。
その原因が分からず首を傾げていると、隣に腰を下ろしていたサクラちゃんが深く溜息をついた。
「馬鹿ねー、ブランコから飛ぶなんて」
「え……ああっ!」
サクラちゃんの言葉に、ブランコを漕いでいたら昔みたいに飛んでみたくなって、それを実行に移したことを思い出した。
結果はあの時と同じ。
「あ、あははは」
「全く……昔と全然変わらないんだから」
苦笑いをする俺にサクラちゃんはそう言って立ち上がった。
「ごめんってばよ」
「ったく……」
それを見上げながら謝ると、サクラちゃんが呆れたような表情になって再び溜息をついた。
なんか今日のサクラちゃん溜息つきっぱなしだってばよ。多分ってか絶対、俺のせいだけど。
「ほら、行くわよ」
そんなことを思いながらサクラちゃんを見てると、不意にサクラちゃんが手を差し出してきた。
「……何笑ってるのよ?」
「んーん、何でもないってばよ」
サクラちゃんの顔とその手を見比べて、自然と口元が緩む。
俺は変わってないってサクラちゃんは言ったけど。
でも、そう言うサクラちゃんも変わってないってばよ。
そう、例えば。
目が覚めたときに見た心配そうな顔とか、
「ほら、ナルトっ」
「うんっ!」
呆れたように笑いながら、手を差し出してくれるとことか。