3つの恋のお題ったー
「ばかばかっ、鏡音君のばか!」
前を歩くグミ先輩が繰り返す罵声に、白い息を吐き出す。
「そんなに怒んなよ」
「怒るよ!」
振り返った先輩の顔は赤い。
俺の頬も寒さで熱を持ってるけど、彼女の熱の原因は別のこと。
「だって先輩がネギ男と話してるから」
「だってじゃないよ!ミクオ君の前であんな…」
「ハグ?」
その言葉に、瞬く間に今までよりも鮮やかな赤に染まる。
わたわたと慌て始めたグミ先輩に、ゆらりと欲望が沸き上がる。
あー、抱きしめたい。ここが学校という公共の場であろうが関係ない。今ここで抱きしめたい。
あわよくば、艶やかな赤い唇に食らいついてやりたい。
「……鏡音君、良くないこと考えてるでしょ?」
「好きな先輩と二人きりだし」
にやりと笑って言えば、先輩はぱくぱく口を開閉させて、
「ばか!!」
顔を真っ赤にして怒鳴った先輩を、やっぱり抱きしめたくなった。
グミ先輩。
不意に立ち止まった彼女を呼んでも反応は無くて、そっと溜め息を零す。
窓の外を見る彼女の視線の先には、ミクオがいた。
夕日に照らされた切なげな横顔に胸の奥が焦がれて、
「グミ先輩」
「わっ!?」
腕を引っ張るといとも簡単にバランスを崩した。
何をするのと批難の声を上げた先輩を腕の中に閉じ込める。
「まだアイツに未練がある?」
俺の声にばたばた暴れていた体が強張る。
黙りこくったグミ先輩から視線を外して外を見れば、ミクオの隣にはもう一つ影ができていた。
「そんなこと、ないよ」
聞こえてきた小さな声。
ともすれば風の音にさえ掻き消されてしまいそうなそれに苦笑して、俯いてしまった先輩の頭をぽんぽんと撫でる。
「それなら、俺だけを見て」
顔を上げた先輩を真っ直ぐ見つめて告げると、新緑の目が丸くなった。