ぐみちゃんと舌っ足らずな声が呼ぶ。
振り返って声の主を探そうとすれば、それよりも先に太ももの辺りに軽い衝撃とぎゅうと伝わる温度。
「レン、どうかしたの?」
さらりと金糸のような髪を一撫で、見上げてくる碧眼に視線を合わせる。
「リンがけがした」
「えっ、大変じゃない。メイコさん達に言った?」
「うん。カイにぃがばんそーこーでだいじょうぶって」
「そっか。それなら安心だね」
ほぅと安堵の息を零して、そこで気づく。
まだ見上げてくる瞳の奥、片割れが怪我したことに対する不安以外の色。
しがみつく小さな腕を解いて、目線が合うように膝をつく。
「私に話したいことあるんでしょ?」
ゆっくりと問いかければ、きゅっと真一文字に引き結ばれた唇が微かに開いて、閉じて、
「ぼくがリンのこと、おしたの。そしたらころんで、血がでて、リンが泣いた。……ぼくがリンを泣かせちゃった」
震える声でそれだけ吐露して、大きな目がみるみる潤んでいく。
「そっか。レンも痛かったね」
そう言って頭を撫でれば、ぼろぼろ透明な涙が零れた。
「喧嘩したの?」
「……なんで分かるの」
「リンと喧嘩したら後ろから抱きつくの、昔からだもの」
「!!もっと早く教えてよ……」
「気づいてるものだと思って。それより、一緒に謝りに行ってあげようか?」
ぽんぽんとお腹に回る腕を軽く叩いて尋ねる。
「…んーん、大丈夫」
しかし落ち着いた声でそう返されて、ぱちりまばたく。
そうか、もう子どもじゃないものね。
不意に成長を見せられて、少しだけ寂しさが胸に宿って、
「喧嘩の原因、グミちゃんなんだ」
唐突に告げられた言葉に、その気持ちはどこかに行ってしまった。
私、何かしたかしら。
解かれた腕の中でレンに向き合って、見下ろしてくる碧眼に視線を合わせる。
きゅっと引き結ばれた唇に、いろんな感情が綯い交ぜになった大きな目が思い起こされる。
「私に話したいことあるんでしょ?」
「……うん、あるよ」
すぅと細くなった目に映る色を探ろうとしたのは、背中に回った腕に叶わなかった。
密着度が増して、耳が触れたところから心臓が鼓動する音が、早鐘のような音が聞こえてくる。
なぜなんだろうと考えるより先に、熱い吐息が耳朶を擽って目を見開く。
「好きだよ」
ぎゅうと痛いくらいに力のこもった腕で密着度はまた増して、呼吸をするのが辛い。
ばくばく鼓動し始めた心臓が、とてもとても痛い。