頬を擽る薄桃色の髪と耳朶にかかる甘い吐息に心拍数を上げながらも、表面上は冷静を装い、サクラの肩をやんわりと押し返す。
「押し倒す?」
「しないってば」
ため息交じりに拒否を示せば、相手はつまらなさそうに唇を尖らせた。
「なんでよー。折角、可愛い下着きてるのに」
「ちょっ、たんま!脱がないで!!」
上着のジッパーを下げて、そのまま白い肌を曝け出そうとするサクラに目を剥き、慌てて手首を掴む。
ちらりと覗く純白の布地からは無理矢理に視線を引き剥がした。
「離せー!!」
じたばたと足をバタつかせて、腕を振り払おうとしたサクラ。
けれど、酔いが回っているせいで、命の危機を感じる怪力が発揮されることはない。
そんな状況であれば、腕力の劣るサクラを拘束するのはいとも容易い。
「ナルトのヘタレ 」
どうしたら、早々にこの状況を回避できるか。
それを考えていた時に、平坦な声が落とされた。
サクラを見遣れば、剣呑な光を宿した目とかち合う。
「ヘ・タ・レ!」
もう一度、さっきよりも大きな声で、しかも一つの音を区切りながら言われた単語に、にわかに頭に血が上った。
前に体重をかければ、体は重力に従って傾いていく。
ぱちり。床の上に組み敷いたサクラの翡翠の瞳が丸くなる。
「別にヘタレじゃないってばよ」
ただ、こんなまともな思考もできない状態のサクラとナニすることを躊躇っていただけであって。
無言で中途半端に肌膚けた襟に手をかければ、びくりと目に見えて大きく身体が強張った。
「怖い?誘ったのはサクラちゃんでしょ?」
唇を親指でなぞると、小さく吐息が漏れ出て、ずくんと腹の奥で何かが蠢いた。
ともすれば身体中を駆け巡りそうになるそれを必死に抑えつけて、すっかり固まってしまった彼女の広い額に唇を落とす。
「酔った勢いでやって起きたら覚えてなかった、とか嫌だろ?また今度ね」
「今度って?」
離れようとすれば上着を掴まれた。
まだ固さは残っているものの、見上げてくるのは真剣な目。はぐらかすことを許さない視線に、一つ息を吸う。
「お酒の力なんてなくても、サクラちゃんが俺としたいなって思ってくれた時でどう?」
ぽんぽんと頭を撫でながら言うと、少しの間逡巡した後、「分かった」と小さな声が返ってきた。ただし、その声はいくらか不服そうなもので、こっそりと苦笑を浮かべた。
「ねえ、ナルト」
ゆっくりとした呼びかけに顔を上げれば、直前の声とは対照的に、サクラはひどく優しい目をして自分を見ていた。
「大好きよ」
微笑を湛えた唇がそう紡いで、途端に全身が熱を持つ。
細い両腕が首に回って、弱い力で引き寄せられる。
「あんたのそういう優しいところ、すごく好き」
唇が重なって、元より赤かった頬は更にその色を濃くする。
でもね、“今度”は優しくしなくてもいいから」
だからさ、そんなこと言われたら本気で襲っちゃうよ?
咄嗟に口に出しかけたそれを音にしないよう、艶やかに濡れた赤い唇を食んだ。