高校に入学して一ヶ月、保健室は職員室と並んで縁のない場所だった。
だけど本日、俺は初めてその未知の場所を訪れることになった。
「まぁ、保健室なんて中学と変わらないだろ」
扉の横のプレートを見て、ドアを横にスライドさせる。
「すみません、足挫いたんで氷……って、あれ?」
無人の保健室に言葉を止め、チッと舌打ちする。
部屋に掛かった時計を見れば、次の授業まで時間がない。教室に戻ろうかと思ったけど捻った足は痛みを訴えていて、暫し悩んでから室内へ入る。
「氷……は冷蔵庫だよな」
言いながら奥の方に冷蔵庫を見つけ、冷凍室を開ける。
中には予想通り氷が入っていた。
これなら勝手に持って行っても問題ないだろ、と数個取り出して側にあったビニール袋に入れる。
そして教室に戻ろうとドアへと向かおうとして、
「リク?」
不意にかけられた声に目を見開き、振り返る。
そして、部屋の一番奥のベッドからこちらを見る一人の女の子と目があった。
「え、っと……?」
俺がフリーズしている間にその子は水色の瞳を凍らせて、ばっとカーテンを閉めた。
残された俺はただ当惑して、授業開始のチャイムの音が鳴るまでその場に立ち尽くしていた。