たとえば、だけど。
この世界が戦争なんてない平凡で平和な世界だったら。
この魔導院が殺し方なんて教えない、ただの教育機関だったら。
裏庭のベンチに座り、エースは珍しく起きたままそんなことを考えてみる。
軽く吹いた風が彼の銀髪と、肩に寄りかかるデュースの茶髪を揺らす。
花のような甘い香りに思考に沈み行こうとしていたエースの意識は強制的に浮上し、隣のデュースを認識すると小さく息を零す。
安心しきった無防備な彼女の寝顔。
横目にそれを見て、エースは微笑ましい気持ちと共に胸の鼓動が早くなるのを感じた。
「……もし、」
もし自分と彼女が兄弟という関係でなかったら。
この胸の高鳴りの意味を知っても良かったのだろうか。
彼女を見るたびに胸の中であふれ出す想いを伝えられたのだろうか。
そんなことを考えて、エースは嘲笑を浮かべる。
そしてそんな思考と感情を閉じ込めるように、目を閉じた。